3月12日。 なんだかソワソワしている女の子達。 そしてばたばたしている、男達。 「…?なんで今日こんなにみんな慌ててるんかな?」 今日は授業以外ほとんど席をはずしている柚木を捕まえ聞いてみる。 一瞬固まり、そして怪訝そうな顔で柚木は教えてくれた。 「…何、言ってるんだい火原?14日が日曜だから 今日みんな動いているんだろう?」 「14日…?」 14日…14…って、なんだっけ…。 …って。 「ああああああ〜〜〜〜!!」 「…思いだしたかい?」 火原和樹、彼女が出来ての初めてのホワイトデー。 …大失態をおかしました…。CANDY
しまった。 本当にしまった。 ホワイトデーのコトは覚えていた。流石に。 しかし。日曜がホワイトデーに当たるということは全然考えてなくて。 「お返し、どうしよう…」 彼女が出来てはじめてのホワイトデーなのだ。 出来るだけ、彼女を…香穂子を、喜ばせてあげたい。 先月のバレンタイン。 火原は香穂子から『特別』を貰っていた。 ひとつは、家じゃないと作れないというホットチョコレート。 そしてもうひとつは香穂子自身―――。 彼女の可愛い我侭と独占欲に愛おしさが増して。 本当に嬉しいバレンタインだった。 なのに。 それなのに。 「ほんっとうに情けないなぁ…おれ」 放課後になるまで、火原の溜息は尽きることがなかった。 ・ ・ 「あ!和樹先輩!こっちですよ!」 待ち合わせの校門前で香穂子が手を振っていた。 慌てて駆け寄る火原。 「ごめん、遅れちゃって。説明が長引いて…」 「卒業式のですか?…もうすぐ、ですもんね…」 少し寂しげな香穂子を慰めようと話の種を探す火原。 まわりを見回すと、ふと香穂子の手荷物が気になって。 異様なほどに大きい紙袋。 「香穂ちゃん…どうしたの?荷物多そうだけど…持ってあげようか?」 「え?ああ、…いえ!大丈夫です!重いわけじゃないので…」 慌てて手を振る香穂子。 そんな香穂子を不思議そうに火原は見ていたのだが、 「香穂子ちゃん?」 その言葉で、そんな気持ちは吹き飛んでしまった。 「王崎先輩!」 「ああ、良かった!今日会えなかったらどうしようかと思っていたんだよ」 「え?」 「はい。先月貰ったチョコレートのお返し。 大したものじゃないけど…よかったら」 「ええ?ありがとう、ございます…!」 そうだ。 忘れていたことがある。 彼女の可愛い我侭とは…おれ以外にトリュフを渡していたのだ。 それはもう…セレクションのメンバー、先生、OBの先輩、おれの友人…。 兎にも角にも広範囲に。 …と、いうことは…。 お返しが半端ない量なのではないか? もしかしたら…いや、もしかしなくても、 あの紙袋の中身は…お返しが…。 香穂子と王崎の仲良く話している姿を見て面白くなく 少し離れた位置で背を向ける火原。 見たくない。 見たくは無いが…怒る筋合いはなくて。 実際忘れていたのは事実なのだから。 背を向けたついでにポケットに手をつっこむ。 「…あ」 ポケットの中にある、感触。 これは…。 ・ ・ ・ 「和樹先輩〜!」 ぱたぱたと駆け寄る香穂子。 「ごめんなさい!和樹先輩、お待たせしちゃっ…」 香穂子の謝罪の言葉は全部言えなかった。 火原のそれが香穂子の唇を塞いだから…。 「………ッ!」 「………」 長い長いキスの後、顔を真っ赤にさせた香穂子が火原を不思議そうに見上げた。 「…どうしたんですか、和樹先輩…? 急に、こんな…。それに…あ、アメ玉…?」 香穂子の口には、火原が口移しで食べさせたキャンディが一つ。 「…嘘つくの嫌だからさ、正直に言うけど…。 おれ、今日がホワイトデーの変わりなんてすっかり忘れてて。 それで…香穂ちゃんが沢山お返し貰っているの見てどうしようかと思って…。 ポケットにはアメ玉しか入ってないし…。 バレンタインデーにあんなに素敵なもの、貰えたのに本当に…ごめんね?」 怒るかな?怒るよなぁ…。 そう思い、深い溜息をついた火原。 しかし… 「…ふふっ!」 香穂子は以外にも笑い出した。 「香穂ちゃん…?」 「あはははは、先輩、可愛い〜…!」 「え?え…?」 「それに、嬉しいです、先輩!そんな風に考えてくれてて。 バレンタインはただの私の我侭だったのに、そう言ってくれて本当に嬉しいです」 「香穂ちゃん…」 「それに」 火原に近寄って耳打ち。 「今のキスが今年のホワイトデーのお返しで一番嬉しかった贈り物でした」 …その、ヒトコトが。 おれにとっても一番幸せなホワイトデーだよ、香穂ちゃん。 ------------------------ 上のバレンタインSSの続き。 騙されてるわ、香穂ちゃん!!(笑) BACK