ロリポップチョコ
僕は年下。 そして香穂先輩、貴女は…年上。 たった一つでも年上なんです。 …誰かが、言っていました。 高校時代の1年は、大きいって。 「志水くん!おまたせ〜…って、なんだかすごい荷物だね…」 「香穂先輩」 掃除当番が思いのほか長引いた日野香穂子は彼氏である志水桂一との 待ち合わせである校門前に走ってきた。 そして…挨拶もそこそこで驚きの声をあげてしまったのだ。 なぜなら。 志水の鞄には。 溢れんばかりのチョコレート。 ぽややんとしている志水は気付いているのかいないのか。 自分の着ているダッフルコートのフード部分にまでチョコレートが入れられていて。 「…すごいって、何がですか」 「何がって…見たまんまだよ?チョコレート。鞄からはみでてるじゃない」 「え…?…あ…。なんでだろう。僕のじゃない荷物が入ってる…」 「なんで今まで気がつかなかったの?重かったでしょう」 「え…僕いつもチェロ持ってるから…。ああ、鞄間違えちゃったのかな、僕…」 自分の鞄を見たあと慌てて(いるようには傍からは微塵も感じられないが) 鞄からチョコを取り出そうとしている志水。 そんな彼を見て倒れそうになりながら香穂子は慌ててその行為をやめるように促す。 「あ、た、多分その荷物は志水くんのだよ!」 「…え。でも…僕、チョコレートなんて買ってないですよ…」 「あ〜…。志水くん、バレンタインって知ってるよね」 「…一応」 「今日は何日だ?」 「2月の…確か、13日」 「よく出来ました。バレンタインは何日?」 「…明日?」 「そう!そして明日は土曜日だから学校はオヤスミ。 だからみんな今日渡そうとしてるんだよ?」 「…そうなんですか…」 まだあまり理解していない様子ながらも納得する志水。 そして帰り道。 ずっと無言だった志水が口を開く。 「…香穂先輩は…?」 「ん?どしたの?」 「香穂先輩も…用意しているんですか?チョコレート…誰かに」 「私?うん。してるよ。さっき渡してきた。義理だけどね」 「誰に?」 「ん?あのセレクションのメンバーがほとんどだよ?月森くんに土浦くんに、 火原先輩、柚木先輩、金澤先生でしょう?あと王崎先輩にも今日会える日だから 持ってきてたんだ!」 にっこり笑う香穂子を見て志水は少しむぅ、とした顔になる。 バレンタイン=好意のある人へチョコを渡すもの。 志水だってそれくらい知っている。 名前も知らない人から貰うチョコよりも。 香穂子ただ一人のチョコさえ貰えればいいのに。 「…香穂先輩は、僕にはくれないんですか」 「?」 「チョコレート」 「え?志水くん、今日欲しいの?」 「…当然です」 大好きな香穂先輩からのチョコ。 欲しいに決まっている。 なのに当の香穂子は欲しいと言う自分の言葉に目を丸くしていて。 自分だけが彼女を特別だと思っているんだろうか? 「なんで、そんなイジワル言うんですか…?」 「あ、違う、違う!違うのよ、志水くん!意地悪じゃなくて」 「……?」 志水が小首をかしげると香穂子は『あ〜』やら『う〜』やら よくわからない言葉を発し考え込んだ。 (その顔!反則すぎよね!女の私より可愛いんだもん) …本当は叫びたかった香穂子の心の叫び。 流石に言うわけにはいかず動揺した心を深呼吸して落ち着かせ 志水の方に目を向けた。 「…笑わない?」 「香穂先輩が笑わないでって言うなら笑わないです」 「…じゃあ、言うけど」 「志水くん…明日は会ってくれないの?」 「え…?」 「明日…なんのために私が前々から志水くんに『空いてる?』って 聞いていたかわかる?」 「あ……」 「特別だから。志水くんが特別…だから、私だけは当日に渡したかったんだよ」 「………」 「う〜こんな子供じみた理由だから恥ずかしかったのに〜。…?志水くん」 途中から黙り込んでしまった志水を不審に思い顔を覗き込む香穂子。 志水のその顔は真っ赤に染まっていて。 「香穂先輩…嬉しい、です」 「志水くん?」 「僕も…同じだったから」 「…?」 「僕も…香穂先輩のチョコは特別だから早く、早く欲しかったんです」 「あ…」 「だから、いいんです。香穂先輩もそう思ってくれたことが」 「…うん。2月14日は一番最初に受け取ってね?」 「2月14日は香穂先輩からしか貰いません」 「…ありがとう」 僕は年下。 そして香穂先輩、貴女は…年上。 たった一つでも年上なんです。 …誰かが、言っていました。 高校時代の1年は、大きいって。 …でも、大丈夫。 二人は『トクベツ』だから。 ----------------------- バレンタインフリーSS第3弾志水×香穂子です。 第3弾にしてもうタイトルのチョコレート関係なくなってるんですが…!! 当初はみんなに生チョコ配る香穂子がなぜか志水にだけロリポップチョコを 渡して、自分だけ子供扱いしている…と怒る志水。みたいな話になるはずだったのですが。 気付けはこんな話になってしまいました…。 でもヤキモチ志水は外せなかったですが。…可愛いから(笑) ちなみにロリポップチョコはマシュマロにプレッツェルを刺して、マシュマロ部分に たっぷりチョコをかけてチョコスプレーやココナツでカラーリングするお菓子のことです〜。 BACK