「ゴディバのトリュフ、デメルの生チョコ…」 「………」 「ヴェルディエのレザン・ドレ・オ・ソーテルヌ」 「……」 「あとは…何だったか。…ああ、そうそう。レグランのアソートボックス」 「……」 「いいか?俺はいつも飽きるくらい高級なものばっか食ってるんだ。 お前、バレンタインの日にちゃっちいチョコなんて買ってくるんじゃないぞ」 これで気付くだろうか? …お前は、俺の真意に。パヴェ・オ・ショコラ
「はぁああああああああ」 本日何度目になるかわからない盛大な溜息を日野香穂子ついた。 原因は今朝、恋人…だと思われる男・柚木梓馬に高級ベンツの中で言われた言葉。 『ちゃっちいチョコなんて買ってくるんじゃない』 「どうしろっていうのよう…」 「な・に・が?何がどうしたの?香穂子」 「あ、菜美〜…」 「お昼時間過ぎてるよ?いつになっても来ないから迎えにきちゃったよ」 「先輩、早く行かないと場所取られちゃいますよ…?」 「え、うそやだ!もうお昼なの!?ごめんね、菜美、笙子ちゃん〜!」 考えすぎていてお昼時間のチャイムがなった事にも気がつかなかった。 慌てる香穂子を制する笑顔の天羽。 「いいって、香穂。なんならここでお昼しちゃってもいいわけだし」 「あ…ありがとう、菜美…」 『持つべきものは友人よね』本当はそう言いたかったのだが。 「お昼に行くよりもなんだか楽しそうなんだもん、アンタの悩み。 ホレホレ、話してよ〜!ホラ、笙子ちゃんも聞きたいよね?」 「え…?」 「………」 …本当に言わなくてよかったと、そう思う香穂子だった。 「ん、と…」 どう言ったらいいものか。 自分と柚木が付き合っている…というのは セレクションが終わったあとからはこの学園で知らないものはいないだろう。 一時はヴァイオリン・ロマンス再来とはやしたてられたのだから。 しかし。 成績優秀・品行方正・眉目秀麗のあの柚木梓馬が 本当は激しく黒い性格の持ち主であるということは…知られていない。 あの親友(と思われる)火原和樹ですら知らないのだから。 多分実の親も知らないに違いない。 その事実を知っているのは香穂子と運転手だけだろう。 「…こ、今週末、バレンタインじゃない?」 「うん」 「で、さ…今日柚木先輩と朝話してたら、言われちゃったんだよね」 「何を?」 「うん…『チョコを買ってこないで』って。 有名所のチョコはホラ…柚木先輩、もてるからいっぱい貰うだろうし…。 どうしたものかな、と思ってさ…」 柚木の黒い部分を出来る限りぼやかして悩みを告げる香穂子。 その言葉にはぁ、と軽く溜息をつきながら天羽は声を上げる。 「は〜。王子サマを彼氏にしちゃ大変だね、香穂子も」 「うう、菜美ったら人事だと思って」 「まあ実際ヒトゴトだしねぇ」 「な〜み〜」 あっけらかんとした天羽のセリフに香穂子が軽く睨んだとき冬海が急に笑い出した。 「ふ、ふふ…」 「笙子ちゃん?」 「ど、どうしたの冬海ちゃん…?」 「あ、やだ…すみません。香穂先輩、菜美先輩。 柚木先輩も、素直じゃないんだなぁって思って」 「素直じゃない?」 「ええ。だってチョコを『買って』こないでって香穂先輩に言ったんでしょう」 「うん」 「『持って』こないでじゃないなんて…。 香穂先輩の手作りチョコが欲しかったのかなって…」 「ああ〜〜〜!そうよ、きっと!ナイスよ冬海ちゃん!」 「…そう、なのか…」 目からウロコ。 そうか。先ほどの悪魔の声にはこんな要望が混じっていたのか。 黒い部分を抜くとわかる遠まわしながらの彼のワガママ。 「さすが天使のような笙子ちゃん!」 「???」 大喜びで冬海の両手を握り上下に振る。 冬海と天羽は頭にハテナマークを浮かべ目を丸くするだけだった。 待ってろよ、柚木梓馬。 いつもやられっぱなしの私じゃないぞ。 そして…バレンタイン前日。 「おはよう香穂子」 「おはようございます、柚木先輩」 いつもの通り、同じ時刻に香穂子を車で迎えに来る柚木。 運転手が香穂子を車に乗せるとそこは柚木と、香穂子の二人きりの空間。 「…さて。この前の俺の言ってたコト。お前の頭で理解出来たのかな?」 「なんのことですか」 わざとしらを切ってみる。 …が、そこは天下の柚木梓馬。堪えるわけがない。 「…わかりきっているボケをかますな」 「…冗談じゃないですか」 「笑えない」 「…ハイ。ご所望のチョコレートでございます」 にべのない言葉に苦笑しつつ鞄から香穂子は 綺麗にラッピングを施した箱を取り出した。 「最初から出してればいいんだよ」 にこやかに受け取りラッピングを丁寧に外していく柚木。 そして開けると…そこには、シンプルな生チョコが。 「ほう…コレ、お前が作ったのか?」 「はい。だって欲しかったんでしょう?手作り」 「…馬鹿が。ちゃちいのはやめろといっただけだろうが」 「ちゃちくなんかありませんよ」 おもむろに柚木が持っている箱から生チョコを一つ取り出し 自分の唇に塗っていく。 「ホラ。豪華でしょう?特別手作りなんですよ?」 「…甘そうだな」 「特別製だもん」 「上出来、だよ…」 そして柚木の唇が、香穂子のそれに合わさった。 甘い・甘いチョコレート・キス。 ----------------------- バレンタインSS第4弾柚木×香穂子です。 初書きなので色々別人ですが(特にゆのきんぐ) ちなみにタイトルのパヴェ・オ・ショコラは生チョコのことです。 私『唇に何か塗る→キス』ネタ大好きみたいです…(笑) ブランドチョコ色々調べたんですが…全部美味しそうでした。 ゴディバのカプチーノトリュフ大好きですv BACK