「本当にコレ、美味しいんだから!」 そう言って差し出されたのは自分の通う星奏学園の購買で販売されているカツサンド。 その溢れんばかりの満面の笑みに… ちょっとやきもち、なんて絶対に内緒。デリシャス・ウェイ
「うそ…それ、本当なの?菜美ちゃん」 「嘘ついてどうするのよ。私の情報網を甘く見ないでよね。本当のほんとう!」 「うわぁ…ショックだぁぁ…」 昼休みにいつも通り一緒に昼食をとっていた日野香穂子に彼女の親友・天羽菜美は (香穂子にとっての)一大ニュースを披露した。 「なんでショックなのよ。別にそれが事実だったとしてもよ? アンタ達もうまわりを気にすることナイ程ラブラブじゃないの」 『まわり【は】気にしてそうだけどね』と心の中で呟きながら天羽はあっけらかんと言う。 しかし香穂子はそんな天羽の言葉が耳に入っていないようだった。 「だってだってだって!!今まで私の一番のライバルって女の子でも トランペットでもなくって…カツサンド、だったんだよ!? でもこのカツサンド、メーカー品かと思って気にしてなかったのに…」 ハァ、とため息一つ。 「まさか、購買のおばちゃんの手作りだったなんて…」 この世の終わりのように落ち込む香穂子を見て天羽は少し焦る。 「なんでそんなに香穂が落ち込むワケ?『あ、そうなんだ。スゴ〜イ』 くらいで終わると思ったんだけどなぁ」 「…終わらないよ〜。だって、和樹先輩ってなんていうか…『女の子』好きじゃない?」 「…女好き?」 「違うってば!…なんていったらいいのかな…『女らしい人』?が好きな感じがするの」 「あ〜それはそうかもね〜」 「で。で、よ?和樹先輩はカツサンドと女らしい女性が好き。 それで女らしい=料理上手と定義するしちゃったら… 和樹先輩に購買のおばちゃんと料理比較されちゃうかもじゃないッ!!」 …ありえねぇ。 天羽は思わずツッコミを入れたくなったが真剣そのものの香穂子の今の状態に 口を挟むのはあまり賢明でないと悟りやわらかく言うだけに留めた。 「どうしよう…」 「でもさ〜…アナタがどんなの作ったって火原先輩は喜ぶと思うんだけどな」 「でも…」 「ん?」 「ワガママ、かもしれないけど。やっぱり…好きな人には…さ、 『美味しい』って言って…笑って食べてもらいたいな、なんて」 顔を少し赤らめて言う香穂子。 この顔を見せられたら火原も黙ってはいられないだろうなと思うその、はにかんだ笑顔。 それがあれば大丈夫だと思いつつも。 「だったらおばちゃんに習えば?そのカツサンドの極意を」 「ッ!!!そ…そっか…」 ぽつりと呟く天羽に目からうろこが落ちたかのようにキョトンと、 それでいて輝きだした香穂子の瞳。 「早速行ってくる!」 残りのお弁当を手早く片付け香穂子は一目散に教室を出て行った。 -------------------------------------------------- 最近面白くないなぁ。 なんで、面白くないと感じるんだろう? 正解は。 『キミが隣にいないから』 「はぁあああ〜」 「どうしたんだい火原?そんなに大きなため息ついてさ」 「ううん〜別に」 「『別になんでもない』ならそんなにため息なんてつかないと思うんだけどね」 『別になんでもない』と続けようと思っていた火原の言葉は柚木にきっちりハモられ、同時に それ以外にないだろうと暗に告げられていた。 「…でも本当になんでもないんだって」 「あ。日野さん」 ちょっとふてくされたような火原の言葉を遮るように柚木は香穂子の名前を火原の後ろに向けて言う。 ぐりっ!っと身体全体を反転させ火原は柚木の告げた方向を見た。 「…ああ…。ごめん。見間違え」 「…ゆ〜の〜き〜…」 「見間違えだって言っているだろう?どうしたんだい?日野さんと何か確執でも?」 「…そんなんじゃない」 「あ。日野さん」 「…コラ柚木!さすがにおれだって何回も同じ手にはひっかからないんだからなー!」 また自分の後ろを見て香穂子の名前を呼ぶ柚木に舌を出し顔をしかめる火原。 「あの…和樹先輩…?」 …身体が、思わず固まった。 「かか、香穂ちゃん…!」 「こんにちは。柚木先輩も」 「ああ。こんにちは日野さん。久しぶりだね」 「ええ。本当ですね」 「香穂ちゃん、今日は…」 「あ…そうなんです。今日からちょっとの間一緒に帰れないんで それを伝えにきたんです」 「え…それって…」 「じゃ、じゃあ!私はこの辺で! では、和樹先輩!柚木先輩さようなら」 そう告げると脱兎のごとく香穂子は去っていった。 「…はぁ…」 「…わかりやすいな、本当に火原は。 ため息の原因は『日野さんに最近避けられている』…か」 「!!!」 「違わないだろ」 「…ちがくない」 そうなのだ。 最近、避けられている? それが火原の最近の悩みのタネ。 お昼を一緒に食べていても。 口元をじ〜っと見られているかと思うと急に目をそらしたり。 話も上の空だったり。 放課後もいつも一緒に帰っているのにすぐに『用事があるので先に帰って』と告げられる。 …用事ってなんなんだろう? おれには言えないこと? …本当に、なんなんだろう…。 -------------------------------------------------- 油の温度、バッチリ。 お肉の下ごしらえ、万全。 ソースだって手作り。 やっぱり、一番の笑顔は 自分が引き出したいって、 そう思うから。 2限目終了後の休み時間。 「…どうでしょう?」 どきどき。 ずずいと香穂子が差し出すのは見事なまでのカツサンド。 それを差し出された相手は…購買部のおばさん。 神妙な面持ちで彼女は口に運ぶ。 咀嚼…咀嚼…咀嚼…そして嚥下。 「うん、美味しい!!」 「やったぁ!!」 「これだけのもの作れれば彼も喜ぶんじゃないかね? …まぁ、お得意様が一人いなくなっちゃうのは悲しいけど。 火原くんの彼女の頼みとあれば仕方ないかねぇ」 「本当にありがとうございます!」 香穂子のカツサンド作り。 最初に購買のおばさんに聞きに言った時は断られたのだが。 何度も何度も熱心に通い、なぜカツサンドにこだわるのか理由を聞かれ、 火原の名前を出した途端態度が柔和し教えてくれることになったのだ。 …火原和樹の交友関係、恐るべし…である。 「それでワタシのカツサンドの極意は全部教えたよ! 家から作って来てその美味しさが持続してるなら本当に合格だ」 「ありがとう!行ってきます!!」 「残りの授業ちゃんと受けるんだよ!」 「わかってま〜す!!」 こんなに時間が長いって思ったことはない。 早く、早く。 貴方に会いたい。 キーンコーン… 「じゃあ今日はここまで」 「よし!」 ガタッと4時間目終了の先生の合図と同時に教室をでる香穂子。 目指すは音楽科・3年の教室。 「先輩!和樹先輩!!」 「わ!香穂ちゃん今日は早いね。ごめん、まだおれ購買行ってなくてさ。 先行ってて?早く買ってそっち行くから」 「買わなくて大丈夫です!!」 「へ…?」 「作ってきたんです!お弁当…良かったら食べてください」 「ほ…本当に?うわーおれ、本当嬉しい…!」 天気がいいので屋上で食べることに決めた二人。 『中身は何かなー』とわくわくと待つ火原に香穂子も少し緊張しつつ蓋を開ける。 「ハイ、和樹先輩!カツサンド弁当です!」 「え〜ッ!!何コレ、すごいよ!カツサンド?え?作ったの?」 「はい」 「うわ、それ以外にもおれが好きなのばっかり…」 「へへ、頑張りました!ささ、食べてください」 「あ、うん!いただきます!!」 モチロン最初に口をつけるのはカツサンド。 口に入れた瞬間…いつもの味が広がる。 いつもの…? ううん、いつもの味に似ているけれど…少し違う。 なんていうか… 「美味しい!!!」 「本当ですか!」 「うん、うん…!すごい美味しいよ!購買のカツサンドに似ているけど… それよりも美味しい!!どうしたの、コレ?」 「私が作ったんですって。購買のおばちゃんに弟子入りして」 「え…ええ!?」 「和樹先輩、いつも購買でカツサンド買って食べるでしょう? それでカツサンド食べている時って本当にもう…いい顔するんですよ。 私も少しでもそんな和樹先輩の顔が引き出せたらなって思って…」 「香穂ちゃん…」 だから、最近一緒に帰れなかったのか。 それも、これも全部…おれのため。 「うわ…香穂ちゃん、本当に俺嬉しいよ!」 「そんなに喜んでもらえて嬉しいです」 「…どうしよう香穂ちゃん。おれ今本当に嬉しくて…抱きしめてイイ?」 「え?」 「ごめんね、ご飯中行儀悪いけど…もう、我慢できない」 ぎゅうう、と香穂子を抱きしめる火原。 最近あまり会えてなくてせつなくて。 自分を想っていてくれたことが嬉しくて。 何よりキミが…愛しくて。 言葉じゃもどかしくって。 すべての気持ちが混ざり合って強く、強く抱きしめた。 「あ〜落ち着いた〜…」 ぎゅうう、と香穂子を抱きしめていた火原だったが落ち着いてきたのか少し腕の力を弱めた。 「ふふ、もう先輩ったら」 「でも…購買のカツサンドの作り方を教えてもらって作ったんだよね?」 「ええ」 「…購買のよりも本当に美味しかったんだよ。なんでだろ」 火原の言葉に香穂子が嬉しそうに微笑む。 「それは私の方がたっぷり愛情つまってますから」 それからカツサンドを購買では買わなくなったが よくカツサンドを頬張る火原の姿を目撃されるようになった。 -------------------------- タイトルだけは前から放置されていたのですが。 久々更新なコルダSSです。 好きなオトコノコの前ではオンナノコは頑張っちゃうのです。 …いきなり香穂子・火原の一人称だったり三人称に変わっちゃったりで 読みにくくてゴメンナサイ。 BACK