「自転車通学だったらおれ、君のこと乗せてあげれるのに」
「えッ?ふふ、冗談でも嬉しいです、和樹先輩!」
「あっ!もしかして馬鹿にしてる?おれ、うまいんだよ?」
「じゃあ、機会があれば」
「言ったね?絶対だよ?」

そんな会話をしたのはつい先日、一緒に帰った時のこと。



イージーライダー

「ふぁぁ…」 心地よいまどろみの中、日野香穂子は目をあけた。 まだ寝ぼけ眼のままテレビをつける。 やっていた番組は、 『笑っていいとも』 日曜の今日にやっているということは…? がばッ! 慌てて飛び起き時間を見てみる。 『11:35』 「うっそ!信じられない!!」 コンクール前の日曜。練習を沢山できる貴重な日だというのに! 志水くんに目覚まし時計あげている場合ではなかった。 自分にも必要ではないか。 慌てて顔を洗い着替えをし家を飛び出していった。 「あう〜やっぱり…」 公園に来たもののやはりの人ごみで。 柚木や月森、土浦に志水、といつものメンバーが黙々と練習を繰り広げていた。 近くから彼らを見れるチャンスとばかりに女の子もまわりにたくさん群がっていて。 この中で練習する勇気は今の香穂子にはなかった。 「うう…出直そうかな…」 おもわずヴァイオリンケースを抱えなおし出口へ向かう。 学校で練習する? でも解釈練習したいから出来れば色んな人に聞いてもらって感想も聞きたいし。 今この時間に学校行っても人いないよねぇ…。 ぐるぐると考えが頭の中を廻る。 「あ、そういえば…」 こことはちょっと外れた所にもう一つ公園があったはずだ。 香穂子の家は学校から徒歩15分圏内なので近くのこの公園を使っているのだが。 「いつもと違うところで練習っていうのも新鮮味があっていいのかもしれない!」 そう思い立ち出発したのが30分前。 「んん…?ここ、は…どこだろう…」 所在無げに立ち尽くす香穂子。 本当にここはどこなのだろう。 全然分からない。 一刻・刻一刻と限られる練習時間が削られていく。 「ああ〜もう!ここで練習しちゃおうかしら」 しかしここは住宅街。 住宅街の真ん中でいきなりヴァイオリン鳴らされたりなどしたら 住民のみなさんが黙ってはいないだろう。 どうしようと香穂子が悩んでいる時に キッ!という軽いブレーキ音と、 「どうしたの?」 と、質問する声がした。 聞き間違えるはずもない。 あの人の、声。 「和樹先輩…?」 「わ!やっぱり香穂ちゃんだ!遠くからなんかヴァイオリンケースらしきものを持っている 女の子がいるな〜って、香穂ちゃんに似ているなって思ってたんだけど。どうしてこんな所に?」 「ああ、それが…」 「ええ、公園?…こことは反対方向だよ?」 「えっ?そ、そうなんですか…?」 「うん。こっち方面、おれの家だし」 「あ…だから先輩、自転車なんですね…」 「そうそう。本当はおれも練習しに行きたかったんだけどね。 兄貴とじゃんけんで負けちゃって買い出しに行くところなんだ」 「ふふ、前も思ってたんですけどお兄さんと仲いいんですね」 「そうかなあ?でも悪くないとは思ってるよ?でも本当素敵な偶然だね! 香穂ちゃんとこんなところで会えるなんて!あ、そうだ」 キキッ!自転車を器用に回転させ香穂子の方に自転車のおしりを見せる。 「乗って!」 「へ…?」 「公園まで送ってってあげるよ!」 「え…ええええ?いっいいですよ!先輩おつかい途中ですし!」 「気にしないでよ。君に逢えたのが嬉しいんだ。さあ、早く乗って?」 「でもでもでも」 「でも…なに?」 「私…重いし」 ぽつりと香穂子が呟いた言葉に火原は自転車を止め香穂子の前に歩いてきた。 「先輩…?」 目の前に来た火原の意図が分からず疑問を投げる香穂子。 「よ…っと」 「!!!???」 その時。 香穂子の身体をいきなり火原が持ち上げたのだ。 腰!腰!腰に手がッ!!!! 香穂子がパニックに陥っている間に火原は香穂子を抱えたまま自転車へ。 台車の部分に香穂子を座らせる。 「全然軽いじゃん、香穂ちゃん」 にこ。 邪気のない笑顔で笑う火原。 「そういう問題じゃありません〜!!」 思わず叫ぶと目に見えてしゅん、と落ち込む火原。 「ごめんね…そんなに乗りたくなかった?それとも抱えたのがまずかった? そりゃイヤだよね。ごめんおれ、はしゃぎすぎちゃった…」 いや…? 和樹先輩の自転車に乗るのが? それとも、和樹先輩に触られるのが? ううん、イヤじゃない。 ただ… 「ただ…」 「?」 「ただ…恥ずかしかっただけで。イヤじゃ、なかったです…」 「本当?やったぁ!じゃあ行こう?」 「はい…」 「じゃあ、しっかりつかまっててね!行くよッ!」 「はいっ!」 段々とスピードに乗る自転車。 「香穂ちゃん、気持ちいいでしょ?」 「はい!本当に気持ちいい…!」 「よ〜し、もう少しっだからラストスパートだ!」 「え?きゃあッ!」 心の底から気持ちよさそうにしている香穂子にいい気になり火原は更に加速しはじめた。 慌てて火原にしがみつく香穂子。 いきなり。背中に香穂子の体温が強く伝わってきて。 ドキリと、胸が大きな音を立ててきた。 キキキキッ!! 慌てて急ブレーキ。 「ごごごごごごめん!つつ、着いたよ、香穂ちゃん!」 「あ、ありがとうございます。ごめんなさい、しがみついたりしちゃって…」 「いや、おれこそいきなりスピードあげちゃってごめんね?怖かったよね」 『もう乗りたくない』 そう言われるんじゃないかと思いびくびくしていた。 「怖かったですけど、ジェットコースターみたいで楽しかったですよ! 本当に和樹先輩自転車乗るのうまいんだなって思っちゃいました」 「…ありがとう!香穂ちゃん!!よし、一緒に合奏しようよ!」 「はい!」 そして、日の暮れるまで二人は合奏、解釈練習を繰り広げた。 地元駅までまた香穂子を自転車に乗せ、送る火原。 「結局…最後まで付き合わせちゃってごめんなさい」 「いいんだよ。おれがやりたくてやったことなんだから。 香穂子ちゃんは何も悪くないんだよ?」 「…ありがとうございます!じゃあ、また明日。学校で」 「うん!また明日ね」 駅前で別れる火原に香穂子。 後ろを向く火原に 「また、後ろ乗せてくださいね!」 香穂子が笑顔で言う。 「うん!いつでも!」 手を振って火原も答える。 久々にいい休日だったなぁ。 そう思い火原は帰路についた。 兄からの買出しのことはすっかりと忘れていて。 家に帰って怒られたのは言うまでもない。 --------------------------- 最後のオチだけがどうにもこうにも決まらなかったイージーライダー。 結局はこんな話に落ち着いてしまいました。 火原っちの夢を叶え隊。その1です(笑) BACK