何度とやっても慣れない。 毎回緊張する出来事。 何度か右往左往しながら、衛宮士郎は意を決して指を伸ばした。 ■恋愛初心者■ ピーンポーン。 軽いチャイムの音がする。 今、士郎がいるのは遠坂邸玄関である。 ようやく、押せた。 チャイムひとつに士郎は深い溜息をついた。 だって、緊張するだろう? 好きな女の子の家。 その子の家は一人暮らしで。 自分が遊びに行けばそこは当たり前のように二人きり。 …しかも彼女は魔術師で結界なんてものが張ってあったりするものだから ヘタな侵入者(またの名を邪魔者)なんてありえない。 そんな絶好なシチェーション。 …これを緊張せずとして何に緊張しろというのだ! そう士郎はひとりごちた。 「…?反応がない?お〜い、とおさかー」 チャイムを鳴らしてからの反応がない。 いささか不審に思いながら重い扉に手をかけると簡単に開いて。 「…無用心だなぁ。これはあとでちゃんと言っておかねば。 …って結界張ってるからいいのか?いやいやしかし。…おーい、とおさかー?来たぞ〜」 広い家だ。出来るだけ広範囲に届くように大きめな声を出す。 すると遠くの方から声が聞こえてきた。 「士郎〜?ごめん、今手が離せないの!部屋にいるから来て!」 「…明らかに自分の部屋から叫んでるな」 声の出所を確認し、間違えのない足取りで士郎は階段を昇っていった。 トントン。 軽いノックを。前にノックなしで部屋に入ったときにキツいガンドを喰らわされたことがある。 …まぁそれの代償として着替え姿の遠坂を拝ませてもらったのだが。 ……それはともかく。 「遠坂?入っても平気か?」 「士郎?うん。でも気をつけてよ」 不思議な返事だが嫌がってはいないようなのでドアを開ける。 …と。 「うおっ!?」 そこには 「な、なにをしているんだ!?」 四つんばいになりお尻をこちらに向けている遠坂凛の姿が。 「あ、士郎〜。いやね、宝石に自分の魔力注いでたんだけどちょっと注ぎすぎちゃったみたいで。 よろけた拍子に宝石箱を倒しちゃったから…拾ってんの」 遠坂のいう魔力を注ぐというのは宝石に自分の血液を注いでいたのだろう。 注入しすぎての貧血による眩暈。 わかった。 …話はわかった。 しかしどうしてソノヨウナカッコウヲシテイルノデショウ? 「鏡台の裏に一個入っちゃったみたいで。 それが最後なのよ。くそ、あともうちょっとだってのに」 士郎の考えがわかったのか質問をする前に答える遠坂。 しかし… 「んッ…!もう、ちょっと」 「…やぁ、いったい…!」 などとちょっと辛そうな声で叫ばれたりすると精神的にも衛生的にも青少年としてはよろしくない。 それに腕をのばすということはスカートも上にあがり、短くなるということで。 ただでさえこの遠坂凛という少女はミニスカートを愛用し、 普段ですら士郎の目のやり場を混乱させるのだ。 そのみにすかーとが。さらに。 短くなって、しまっていて。 これはもう、理性を飛ばせということなのか? そんな疑問が頭を掠めた瞬間。 「よっしゃ、獲ったーーー!」 という叫び声と。 ガツッ!! 喜んで勢いつけて立ち上がった遠坂の後頭部が鏡台の引き出しにクリーンヒットする音が 見事同時に士郎の耳に飛び込んできていた。 「痛っ〜〜〜〜!!」 言葉にならずうずくまる遠坂 「お、おい。大丈夫か?」 そんな士郎の言葉に。 大丈夫なワケないでしょ!? といいたげな瞳がかえってきた。 涙が少し滲む目じりが。とても可愛くて。 本当は抱き寄せて、キスをして。…その、先もしたいなどという欲求もあったのだけど。 その後のことを考えて士郎は遠坂を優しく包みこみぶつけた箇所を撫で始めた。 「…何のまね?」 「いたいの、いたいの、とんでけ〜って」 「…気休めだわ」 「うん。そうかもしれないな。でも俺がしたかったから」 「…こ、子ども扱いしないでよ…!」 真っ赤な顔をして士郎を見上げる遠坂。 そんな顔をしても逆効果なんだって! 可愛すぎるぞ遠坂!! 誰かコイツに男のサガを教えてやってくれ! …そんな士郎の心の叫びは遠坂に伝わることはなかった。 ------------------------ いずれ遠坂サイドも出来たらな、と。 自分の格好に無関心な凛が大好きです…!!