■雑念エンタテインメント■ 「うわ…思ったよりも遅くなっちまったな」 「そうね…。いつもより学園を出るのが遅くなったものね?」 「む」 「誰かさんの頭はもう少しいいと思っていたのだけど。思い違いもいいところだったわね。 わたしとしたことが。失敗しっぱい。」 「むむ」 とっぷり。 …と形容してもいい時間。 普段の衛宮家ならばもうそろそろご飯が出来上がるというこの時間帯に、 ようやく俺…衛宮士郎と遠坂凛は校舎を出たところだった。 遠坂の言葉に少し棘が含まれるのを感じながら俺は詰まるしか出来ない。 …彼女の言うことが真実だから。 高校生活最後の年。 これを卒業すると同時に俺はイギリスに留学する。――遠坂とともに。 今までの中の上〜下を行き来する俺の成績ではもちろん英語など話す事は出来なくて。 せめて生活に必要な言葉だけでも…と遠坂に教えてもらっているのだ。(一部藤ねぇも含むが) …まぁ教えてもらっているのは英語だけではなく、魔術に関すること、 そしてその魔術関係の書物を読むためのドイツ語も教えてもらっていたりするのだが。 そんなわけで今日は遠坂に図書室で英語を見てもらっていたのだが、 あまりの俺の基礎の無さに遠坂が熱くなり思いのほか時間がかかってしまったというわけだ。 言い返す言葉がないので黙っていると困ったように遠坂が微笑んだ。 「…まぁ、いいわ。今日士郎が当番の日よね? 家帰ったらすぐご飯の用意よね。手伝うから早く作っちゃいましょ」 「え。いいのか?」 「ええ。わたしもお腹すいたし。その代わり。夜は寝かさないわよ?」 ドキリ。 遠坂の言葉に胸が高鳴る。 もしかして。最近、忙しくて、その…ご無沙汰だったし。遠坂も期待しているのか? そんな俺の期待を余所ににっこりと笑う遠坂。 「さっき教えたこと忘れてないかテストよ。 魔術も教えなきゃいけないし。寝てなんかいられないわ。 覚えてなかったらガンドだから。覚悟しなさい」 …まぁ。こんなことだろうとは思ってたけどさ。 「士郎?早く帰るわよッ!早くしないとセイバーや藤村先生が暴れだすかもしれないんだから!」 「あ、ああ。すぐ行くさ」 そうだ。今、衛宮家には口に出すと殺されるが食いしん坊な獅子と虎がいるんだった。 夕飯の時間が遅れたり、食事のレベルが落ちるととんでもない仕打ちが後からくるのだ。 …それだけは避けなければ。 ・ ・ ・ 家に帰り、セイバーたちと軽く言葉を交わしすぐに台所に立つ。 隣には制服姿でエプロンをした遠坂の姿。 作業の邪魔になるからかいつものツインテールではなく後ろで緩くひとつに結んでいる。 いつもと違う姿の遠坂凛。 …やっぱ。遠坂って美人だよな。 しみじみ思う。 入学当初から、噂になっていた少女。 どこにいても目を引いた。成績優秀、眉目秀麗、運動神経抜群・品行方正な優等生。 恋とも呼べない憧れを描いていた少女が今、俺の隣にいる。 …なんだかとてつもなく凄いことのように思えてきた。…いや、実際すごいことなんだけど。 「…ろう。しーろーうー!」 「うわ、な、なんだよ。遠坂」 ぼうっと遠坂を眺めて昔を思い描いていた俺を彼女自身が現実に戻してくれた。 「なんだよ、じゃないでしょ?ご飯。何作るかって言ってたの! もう、セイバーも藤村先生もお腹空いてたっぽいから手早く出来る中華でいいわよね?」 そう言いながらてきぱきと冷蔵庫の中身を確認し、使えそうな材料を出してくる。 「ピーマンに、卵、かに缶…。お、たけのこもあるじゃない。 本当にここってなんでも揃ってるわね。お肉は…あったあった。んじゃ、青椒肉絲とかに玉が出来るかな」 ぶつぶつと呟いた後、遠坂は俺の方を向いた。 「あと冷凍したご飯もあったからそれでチャーハンね。 卵ばっかになっちゃうけど、解凍しただけってのも味気ないし…仕方ないわよね。 じゃあわたし、かに玉の準備するから。士郎はピーマンとたけのこを切って」 的確に指示をだし俺にピーマンとたけのこの水煮を渡してくる遠坂。 手伝うと言っていた遠坂だったが明らかに彼女の方が夕飯作りのメインになってしまっている。 それはきっと彼女のわかりづらい優しさなのだろう。 そんな遠坂だから俺はまた惹かれたと、断言できる。 にやにやしながらピーマンを切っていたからだろうか 「ッ!」 嫌な音と痛みにまな板を見てみる。 うーわー。ピーマンが一部赤パプリカになってるよ。 …なんてツッコミはおいておいて。 久々に包丁で手を切ってしまっていた。 聖杯戦争が終わってから、血なんてあまり出さなくなっていたので ぼうっと指を眺めていたのだが。 「何やってるのよ!血!アンタ血が出てるじゃないのッ!」 遠坂の叫び声。 「あーでも大した傷じゃないし舐めときゃなおるからさ」 ま。料理中だから舐めれないけどなー。 そう続けて水で洗い流そうとしたのだが。 ちゅぷり。 俺の言葉はそこで途切れた。 その、なんというか。 遠坂が俺の指を舐めている、から。 「〜〜〜〜〜〜ッ!!」 こそばゆい。 遠坂の舌が指に絡みつく。 怪我をしている部分を丹念に。じっくりと。 傷の部分がちりちりとしみるがそのちりちりとした感覚までも気持ちいいと感じてしまう俺。 なんて、いうか、その。 遠坂の、俺の指を舐める表情が。 違う部分を、舐められて、いるような、そんな錯覚。 …まぁ、してもらったことはないけども。…頼んだりとかしたら、殺されそうだし。 そんな俺の気持ちなんぞまったく知らんといった表情で ちゅぷ…っと音をたて、遠坂は指から口を離す。 「ふん。…ホラ。舐めたからって直らないでしょう? さっさと消毒してきなさい。アンタ、自分の身体を大切にしなさすぎよ」 「え、あう。…うあ」 …と、言うことは。なんだ。 怪我をそのまま放っておく俺を叱るために遠坂はわざわざ俺の指を舐めたというわけですか。そうですか。 …俺のこの色んなところが元気になった身体をどうすれば。 そんなこんなで言葉を発することが出来ない俺を不思議そうに見上げた遠坂は…。 顔が赤い俺に不思議そうに首を傾げ、 目線を下に向けたあと、自分自身も真っ赤にさせ目くじらをたてた。 「アンタ、何やってんのよーーーッ!!!」 ・ ・ ・ 「おまたせ、セイバー。藤村先生。ご飯出来たわよ」 「わーい。ごはん!ごはん!わ、中華だぁぁ!遠坂さんの中華、美味しいからスキー!」 「ありがとうございます。藤村先生」 出来立てほやほやのチャーハンを盛り付け大河に手渡す遠坂。 次にセイバーに手渡す。セイバーはしっかり受け取りながらも少し複雑な表情で。 「あの、凛…。シロウは、どうしたのですか…?」 「え?衛宮くん?ああ。少し体調を崩したみたいで。3日寝込めば直るわよ」 にっこりと笑う遠坂に。 いくら最強のサーヴァントを誇るセイバーも。 これ以上聞くことは『本能で危ない』と悟ったらしい。さすが直感スキルの持ち主。 そんなやりとりがあったとはまったく知らず。 俺は遠坂のガンドを直撃で受け。 きっちり3日、寝込んでいましたとさ。 ------------------------ 微妙に下品。スミマセン。 BACK