+miss you+

前までは考えられなかった生活。 家を入ると、美しく磨かれた玄関。 味はもとより彩りも美しい食事。 そして…あたたかいお風呂。 もう、彼女なしには考えられない生活。 家政婦としてだけではなく…一人の女性として。 そして…気付いた。 彼女は一体いつ、『どっちの風呂を使っているのか?』…ということに。 「むぎ。今日はもうあがれ」 「へ?ど、どうしたの?一哉くん…」 「何だ、聞こえなかったのか?今日はもうあがれと言ったんだが」 「…は?」 「…頭だけでなく耳まで悪くなったのか、馬鹿」 「…あたしの聞き間違えでなければ今日はもう終わりでいいと…?」 「先ほどからそのように言っているのだが」 キッチンで皿洗いをしていた鈴原むぎに雇い主である御堂一哉が声をかける。 しかしその内容に驚きを隠せないむぎは目を丸くさせるばかり。 「…仕事がしたいのなら別に構わないが」 広いキッチンの真ん中に鎮座している作業台の上に乗っていたチョコレートを 口に入れその包装紙を床に放る御堂。 「ぎゃー!休みます!ありがたくあがらせて頂きます!だから仕事を増やすなーっ!!」 「分かればいい」 本気で慌てるむぎを見て笑う御堂。 そんな御堂を見て訝しつつも笑うむぎ。 「ありがとう、一哉くん」 「ああ…。もう風呂は沸いているんだろう?」 「あ、うん。さっき沸かしたから…そろそろ湧いてるはずだよ」 「そうか…ならお前、今日は入って寝ろ」 「え…?あ、い、いいよ!先にみんな入っちゃって?」 「何故だ」 「何故だって…だっていつもみんな入ったあとに入ってるんだよ? それに雇い主より先に入るってのもどうかなって」 「その雇い主がいいといっているのだが?」 その言葉を聞きぴたりと止まるむぎ。 「…本当に、いいの?」 「何度も言わせるな」 「…ありがとう」 ふわりと微笑み御堂を見上げるむぎ。 そんな二人を邪魔するかのように声がかかる。 「むぎちゃん」 「あ…どうしたの?瀬伊くん」 ちっと小さく舌打ちをした御堂をまったく気に留めず ニコニコと笑いながらキッチンに入ってきたのは 祥慶学園の妖精・一宮瀬伊だった。 「むぎちゃん、今日これであがりなんでしょ」 「えへへ、そうなんだ!一哉くんがいいって」 「ふ〜ん。よかったね、むぎちゃん」 「うん」 「そうだ。お風呂、地下の入ったら?まだ羽倉入ってないからキレイだよ」 「なんだとコノヤロウ」 ズビシ!と小気味良い音がし、一宮にチョップが入る。 「あいた!…なんだよ、羽倉。本当のことじゃないか」 「何がだよ!俺は別に湯船汚した覚えはねぇぞ!」 怒る羽倉麻生をぽかんと見つめていたむぎに気付き慌てたように口を開く。 「なんだよ!本当に汚くなんてねぇって!」 「べ、別に汚いなんて思ってないってば!」 「…だって。よかったね、羽倉。んじゃ、むぎちゃん早くお風呂入っちゃいなよ。 そうしたら次、僕入りたいから」 「…ちょっと待て」 「おい、一宮」 にこにこと笑いむぎの肩を抱きキッチンを出ようとする一宮を同時に呼び止める御堂と羽倉。 「なんでむぎが地下の風呂に入るんだ。今は俺の部屋の隣なのだが」 「地下の風呂に入ることに文句はねーが、 なんで次がお前なんだよ!?いつも俺の方が先じゃねーか!」 「うわぁ、二人ともこわーい」 「わ、瀬伊くん、ちょ…っ!」 むぎを盾にさっと彼女の背に隠れる瀬伊。 余計二人を煽っているのはわざとだろう。 「ッ!テメ、一宮…!」 「こらこら、さっきから五月蝿いと思ったら何をやっているんだい?」 「依織くん…っ!」 まさに救いの神! そう叫びそうになるのを押さえむぎは声の方に振り返る。 そこにはむぎの予想通り、同居人の最年長である松川依織の姿が。 「そんなことを言い争っている場合じゃないだろう? むぎちゃんの貴重な休み時間が減っちゃうじゃないか。 珍しく厳しい雇い主からあがっていいと言われたというのに」 「…松川さん」 「本当のことだろう?僕は嘘を言っている気はないよ、一哉?」 反論しかけた御堂ににっこりと笑い制す松川。 「さ、むぎちゃん。ここは置いておいていいから。 早くお風呂に入って休んでしまいなさい」 「………あの」 「なんだい?」 「…休みをもらえて。本当にそれは嬉しいんだけど」 「…なんでみんな、そんなにお風呂に固執するワケ…?」 (男四人の)時が止まった。 「さて、仕事の続きでもするかな」 「あ、僕もピアノ弾いてこよっと」 「…あ、もしもし。…今?うん、暇だよ。ちょっと待って…部屋に戻るから」 復活を遂げた御堂、一宮、松川がさぁっとキッチンを出て行く。 「え、あっ!お、俺もキュー磨いてこよ…」 「あ〜さ〜き〜く〜ん!説明してもらいましょ〜か〜」 他の三人に比べ少し覚醒が遅かった羽倉がむぎに捕まる。 「!こ、怖いぞお前…」 そして羽倉からことの真相を聞き…。 「信っじらんない!ばかーーーーっ!!」 むぎの風呂事情を、知る者は未だいない。 【END】 --------------------------------- 初めてのフルキスSSは彼氏なしルート、総受け風味でお送りしました。 キャラの口調を早く安定させねば…。 『好きな女の入った風呂』というのは なかなかどうして気になるシチュらしいです。