オンナなんて。面倒くさいって思ってた。
すぐ怒るし、自分の言い分が通らないと泣くし。

でも…アイツは違って。
それから俺の中で、アイツの位置が、変わった。

この気持ちは…なんて言う?


+hard to say+

「ハイ、静かに〜!出席取るよ〜!」 授業のはじまりの合図であるチャイムが鳴り響き、 教師である鈴原むぎが教団に立った。 「一宮くん」 「…」 「あれ、一宮くん…いないの?」 瀬伊の名前を呼ぶが返事がない。 今日は一緒に朝ごはんを食べた。そのとききちんと制服を着ていたのは見た。 ちゃんと学校にきているはずだよね…? そうむぎが考えていると羽倉麻生が手をあげた。 「?どうしたの、羽倉くん?」 「保健室」 「え…?」 「保健室行くってよ。あとから体調良くなりゃ戻るんじゃねえ?」 「あ…そうなんだ…。わかりました。ありがとう、羽倉くん。 じゃあ出席の続きをとります…」 ・ ・ ・ 「じゃあ今日も外で絵を描いてもらいます。 今日が提出の日だからみんなラストスパートかけてね! じゃあ授業終了5分前には戻ってきてね〜!」 そうむぎが宣言した後、生徒が思い思い今まで描いていた絵の続きの場所に散っていく。 戻ってきた生徒達に渡すプリントを確認した後 椅子から立ち上がりむぎは身体軽くを伸ばした。 「ん〜っと。よし、じゃあそろそろみんなの見回りに行こうかな」 そういえば。 この前途中経過を見たとき、一人だけ違う場所で描いていた人のことを思い出す。 「そうだ。せっかくだもん。行ってみようかな」 目指すは芝生広場。 最近気になる、あの人のもとへ。 ・ ・ ・ 「描けた?」 「うわぁっ!って、お前、むぎ!いきなりなんだよ!」 「わ!麻生くん、学校では鈴原先生!」 「わ、悪ィ…ってお前も麻生はまずいだろ…」 「って、あ。そっか。ごめん、羽倉くん」 真剣にスケッチブックに向かっていた麻生の背後から覗き込んできたむぎ。 驚いて思わず家にいるときのくせでむぎのことを名前で呼んでしまう麻生。 そんな麻生にあわてるむぎも名前で呼んでしまって。 思わず二人で同時に噴出してしまった。 「二人してなにやってるんだか」 「本当にね。でもここ、人いなくてよかった」 そう。ここで絵をかくものは誰一人としていなくて。 ただでさえラ・プリンスの一人である羽倉麻生の周りには人が絶えないのに。 珍しいこともあるもんだとむぎが辺りを見回した。 「…追い出したからな」 「…え」 「…イヤなんだよ。絵とか描いてる姿。見られんのが。 …絵描くの、別に嫌いじゃねぇけど。うまくもないし」 「そう?あたし、羽倉くんの絵好きだけどな」 『好きだけど』 むぎの言葉がいやに耳に残る。 絵のことを言っているんだとはわかっているんだけど。 わかっているんだけど…。 「でも追い出してくれて助かったよ。さすがに『むぎ』とか 呼ばれちゃってるところ見られたらとんでもないもんね」 「あ〜…そうだな」 「あはは。…さて。そろそろ他のとこ行くかな」 「あ?」 「ん?どうしたの?」 次に見回るところに行こうと思いむぎが立ち上がると明らかに落胆したような麻生の声で。 「…なんだよ。もう行くのか?」 「え…だって。麻生くん、絵描いてる姿見られるのイヤなんでしょ? それにあたしのせいで絵が時間中に終わらなかったらタイヘンじゃない。 あたし、これでも美術教員なんだから!…助手だけどさ」 「…終わった」 「え?」 「もう終わったって」 「うそ」 「ホント」 「見せて」 終わったという麻生にむぎはスケッチブックを見せてとせがんだ。 しぶしぶ手渡す麻生。 絵を見るむぎの真剣なまなざしはいつもの少女の姿とは違い本当の先生のようで…。 「わ…本当だ。麻生くんってすごいね」 「は?」 「だって。料理だってうまいしさ。絵もきちんと提出期限内に終わってるし」 「お前の方がうまいだろ」 「え?」 「料理。…俺なんかのより、何万倍もウマイ」 麻生の言葉に。 最初はぽかんとしていたむぎの顔がみるみるうちに赤くなり、 その後、花のように綻んだ。 「ッ!」 その表情を見て。 いいようもない気持ちが広がっていく。 ああ、この気持ちが。 悩んでいた気持ちの正体が、カタチをつくっていく。 「ありがとう」 「…別に」 本当は、もっと気のきいた言葉をいいたいのに。 本当は、もっとこの笑顔を見ていたいのに。 でも。 上手くいえなくて。 見ていたいのに、気恥ずかしくて彼女の顔が見れなくて。 それでも伝えたい気持ちが強くて。 言葉じゃ言えない、もどかしい気持ちが爆発して彼女の身体を抱きしめた。 「え、ちょ…!麻生くん…!?」 「…むぎ…」 驚いた。 いつも跳ね回って走り回っているコイツ。 元気いっぱいの、コイツ。 こんなに小さかったんだ。 こんなに、柔らかかったんだ。 抱きしめたぬくもりから、愛しさが広がっていった。 「むぎ…好きだ」 先ほどまで言えなかった言葉が。 抱きしめた反動からかするりと、口から零れ落ちた。 普段の麻生からは考えもつかないようなセリフ。 「麻生く…」 「…むぎは…?俺のことどう思って…」 むぎの中の自分の価値を聞こうと思った瞬間。 無常にもチャイムが鳴り響いて。 「きゃーーーーーッ!!授業!ご、5分前に集まるようにってあたしが言ってたのに!」 「う、うわッ!!」 チャイムの音に我に返ったむぎが容赦無用で麻生を突き飛ばし、 芝生の上に転がる麻生。 「ご、ごめん、麻生くん!さ…先、行くねッ!!」 赤い顔のまま走り去るむぎ。 芝生が頭についたままの麻生は呆然とその姿を見ることしか出来なかった。 「羽倉って、狼なんだね」 不意に耳に入ってくるのは男のくせに甘い声。 「…なっ!一宮!!お前今の…!!」 「うん。ごめんね。見ちゃった。…全部」 「全部かよ!」 「うん。赤くなったむぎちゃん、可愛かったね。 その顔させたのが羽倉ってのがちょっとつまらなかったけど」 「…ほっとけ。ってかお前、保健室じゃ…!」 「だって。こんな面白い出し物、見逃す手はないでしょう? レポートも書き終わったところだったしね」 「…いちみやぁぁぁ!!」 結局。 瀬伊との言い争い(主に麻生の叫び)のため授業の最後には麻生は間に合わなかった。 なので… 「ご、ごめんみんな!!」 「先生、遅い〜!」 「本当にごめんね!みんな、スケッチブック提出して、 プリント一枚ずつ持って行ったら解散していいよ!」 「はーい。…って先生、何かいいことあったの?」 「…え?」 「顔。すごい笑ってるけど…」 「え…?」 …こんな会話が美術室で交わされているなどとは露ほどにも気付かず。 羽倉麻生の春は、近いようで、まだ遠いようである。 【END】 -------------------------------- 麻生×むぎ。初SS。 拍手リクが多かったので書いてみました。 最初考えていたのとは全然違う話しになってしまいました…。 どっちにしろギャグなんですけども…。 羽倉がなんだか別人です(いつもですか。そうですね) そして相変わらず瀬伊が神出鬼没です。