この状況を一体どうすればいいのか。

誰か、助けてくれ。

…俺の、心臓が、もたないから。


+ぎりぎりの境界線+

「…なんで?」 思わず部屋に入った途端、部屋の主である羽倉麻生は呟いた。 部屋の主である麻生は今部屋に入ったばかりで。 …にも関わらずに自分のベッドには安らかな寝息をたてている人物がいて。 「…なんで、お前がここで寝てるんだよ…鈴原」 …そう。麻生のベッドを占領して寝ているのは 彼が今一番気にしている少女…鈴原むぎ、その人だった。 むぎの方に目をやってみればベッドの横にきれいに畳まれた洗濯物の山が置いてあって。 彼女が畳んで持ってきてくれたんだと容易に想像がつく。 しかし…しかしだ。 だからといってなんでここで寝ているのかの説明がまったくもってつかない。 「勘弁してくれよ…マジで」 「…ん…」 ぽつりと麻生が漏らした言葉に反応するように声をだしながらむぎが寝返りを打つ。 「ッ!!」 むぎはいつも動きやすいようにと家ではミニスカートとキャミソールを愛用している。 それは今日も当たり前のように同じで。 身体をひねった瞬間、見えて、いるのだ。 彼女の、健康的な足が。 そして、上も、ばっちりと。 「〜〜〜〜〜ッ!!」 言葉にならない叫びをあげ麻生はそこら辺にあった自分の上着をむぎにかける。 はぁ、と一息ついてからもう一度むぎを見てみる。 「疲れてんのかな…コイツ」 そう呟いて疲れていないはずはないんだと思い直す。 学校では慣れない教師の真似事をして。 家では家事をこなして。 そして…たった一人の家族となってしまった姉を必死になって探して。 なのに笑顔を絶やすことはなくて。 そればかりかぎすぎすとしていたこの家の住民にまでいい変化をもたらしてくれて。 いつも笑顔だから気づかなかった。 「ごめんな」 そう呟きむぎの頬に手を伸ばした。 瞬間。 ぱっちりと目をあけたむぎとばっちり目があう麻生。 「…」 「…」 「……ッ!ご、ごめん、麻生くん…ッ!あ、あたし、もしかして寝てた…ッ」 しばしの無言のあと動き始めたのはむぎの方だった。 まだ無言で止まったままの麻生に怒ってしまったのだろうと考えたむぎは 早々にこの部屋を去ることにした。 「わ、ほ、本当にごめんね、麻生くん!じゃあ、あたし行くか…」 部屋を出ようとむぎが思った瞬間、強い力に拒まれた。 「あ…麻生くん…?」 しっかりと、繋がれた麻生の手によって。 「…疲れてるのか?お前」 「え?なんで…元気だよ?」 「疲れてなかったらこんなとこで寝ないだろ、フツー」 「う。…いや、なんか…ねぇ…」 「…なんだよ。もしかしてこんなこと初めてじゃないのか?」 「こんなことって?」 「俺の部屋以外でも寝てたりとか」 「するわけないでしょ!今回が初めてだよ!」 その言葉に少しほっとする麻生。 自分はともかく、あとの3人は危険だ。 ベッドでむぎが寝ていたりなぞしていたら美味しくいただかれちゃっているかもしれない。 自分で考えておきながら麻生の顔は赤くなった。 そんな赤い顔を見られぬよう少しそむけながらぽつりと質問を口にする。 「じゃあなんで俺ンとこで寝てるんだよ」 「いや…なんか、安心しちゃって…ねぇ」 ほっとしたのもつかの間。 俺って男として見られてないんじゃねぇ? そんな疑惑が頭をよぎる。 再び固まる麻生にむぎの言葉は聞こえるはずもなく。 「だって…この部屋、麻生くんの香りがするんだもん。 ベッドに腰掛けてたらさ…なんか、麻生くんに包まれてる感じがして。 安心っていうか…なんか、落ち着いちゃったんだよね〜って麻生くん?麻生くんってば!」 神様助けてください。 この鈍感女に、愛の手を。 【END】 -------------------------------- 鈍感王羽倉に鈍感と言われるむぎの立場って。 むぎリベンジ編は後日。