きみを見ていると、最近変なんだ。 幸せな気分になったり、胸が苦しくなったり。 そして、きみのこと…カワイイヒト
「火原。…最近、音変わった?」 「…へ?」 待ちに待った昼休み。 購買部の戦利品・カツサンドをはじめとした大量のパンをほうばっている 火原に豪華な弁当を上品に食べながら柚木は呟いた。 「ほんなほとないひゃろ」 「…食べてから話すか、話してから食べてくれないかな?」 もふもふと口を動かす火原に厳しい一言。 思わず無言で嚥下する。 「…。そんなことないだろって言ったの!別に変わらないよ?」 「そう?なんかいきなり音はずしたかと思えば急にいい音になったりって… みんな話しているよ?」 「みんな…って?」 「月森くんとか、志水くんとか…金澤先生もおっしゃってたかな?あとは…日野さん」 「香穂子ちゃんが!?」 「…いや。日野さんは特に何も言ってなかったかな? ごめんね、火原。僕の勘違いだったみたいだよ。 …どうしたんだい火原?急に立ち上がったりして…」 「ななななんでもない!さて!メシも食べたし! 俺は青山でも誘ってバスケ行ってくるかな!じゃな、柚木!またあとで!」 食べ切れていないパンも持ったまま、 口をつけた分の残りのパンを一気にほおばり火原は慌てて席を立った。 「うん。いってらっしゃい」 柚木も笑顔で見送る。 …心の中で分かりやすいヤツ。と呟きながら。 『最近音変わった?』 …自分でもわかっている。 中2からとはいえずっと吹いてきている、相棒。 音の変化なんて気付かない方がおかしい。 直そう、元に戻そう。ずっとおもっているけれど。 でも。 他のオトコと仲良く話す君を見たら。 そんな想像をするだけで…音が悪くなっていくのがわかるんだ。 火原は悩みをも振り払うように頭をふり、普通課校舎に足を運んだ。 「シューット!!」 ザッ! 心地よい音をたてゴールにボールが吸い込まれていく。 「絶好調じゃん、火原!」 「まっかせてよ!」 「くっそ〜!次はこっちの番だからな!火原!」 「よし、かかってこい!」 相手チームにボールが渡る。 「パス!」 「よしこい…あ!しまった…!」 敵がパスしたボールは読んでいたのか火原のチームである青山の手へ。 「走れ!火原!!」 「オッケイ!」 「しまった、火原をマークしろ!」 射程距離まで走る火原。 「青山、パス!」 「行くぞ火原!!」 「あ…」 青山の奥には。 火原の悩みのタネ。 日野香穂子が、歩いていた。 気付かないかな?気付いてくれないかな?…気付いて欲しい。気付いて! そう心の中で思っていたら香穂子が火原の方へ向いた。 「ッ!!!!」 ドクン。 火原の胸がなる。 その瞬間香穂子の顔が蒼白になった。 「香穂子ちゃん?」 「先輩!あぶな…!」 「ばか火原避けろ…!」 火原・香穂子・青山の言葉は見事に同時に発せられて。 「へ…?」 火原が気付いた時にはもう遅く。 バスケットボールが火原の顔にクリーンヒットしていた。 「火原先輩!大丈夫ですか?」 「…香穂子ちゃん…?」 目を開けると。 心配そうな香穂子のアップ。 「あれ…?おれ…」 「先輩、顔にボール当たったんですよ?大丈夫ですか…?」 「あー…。おれってば格好悪ぃ…。」 「そんなことないですよ」 にっこり。香穂子は笑う。 「さっき、シュート決めてたでしょう?友達と見ててキャーキャー騒いじゃって。 5時間目が教室移動だったんで全部は見れてなかったんですけど…」 ちょうど香穂子が移動中に火原が見つけたらしい。 ちゃんと。見ていてくれていたんだ。 あふれ出す気持ちに後押しされ火原は香穂子の頬に手をのばす。 どうしよう。 嬉しい。 本当に。 君は…。 「か…」 『可愛いね』 そう思わず言いそうになり火原は固まる。 今、おれは何を言いそうになった? 青山達がいる前で。 告白ととられても仕方のないセリフを言いそうにならなかったか!? 聞き漏らしていてくれればいいのだけれど。 そう期待をしちらりと香穂子の方に目を向ける。 「『か』なんですか?」 小首を傾げ質問。 確実に耳に届いている。 か…か…蚊…カ…『か』のつくもの… そうだ! 「カツサンド!!」 「カ…ツ、サンド…?」 ああ、おれってバカ? そう思いつつも話をやめるわけにはいかない。 「そう、カツサンド。前に美味しいって言ったよね? もう食べた?、もし食べていないんならゼヒ食べてもらいたくって! 1個食べ切れなくて残しているのがあるんだ!良かったら、食べて? 本当におすすめなんだ!」 息をつく暇もないほどに一気に話す。 カツサンド…残しておいてよかったとばかりに取り出し香穂子に手渡す。 「あ…ありがとうございます、火原先輩」 ぽかんとしつつもカツサンドを手にする香穂子。 「おい、火原!日野さん!そろそろチャイム鳴るぞ!」 遠くから青山の声。 もうボールを片付けに言っていたようだ。 「おぉ、悪い、青山!…行こうか、香穂子ちゃん」 「はい」 「当面のライバルはこっちみたいね?カツサンドさん」 「へ?何か言った?香穂子ちゃん」 後ろを歩く香穂子の呟いた言葉は火原に残念ながら届くことはなかった。 「いえ、なんにも。今日放課後、また合奏しましょうね」 「ああ、君さえよければ」 火原が自覚するのは、もう少し先のこと。 ------------------------------ 当面の香穂子のライバルはカツサンドだと今でも信じています。 BACK