+あと5分時計の針を遅らせて+
「はぁ…はぁ…。少し…遅くなっちゃったかな」 パタパタと軽い音を立てながら走っているのは名門校、 ローゼンシュトルツ高等学園の生徒の一人にして エリートの証でもある【シュトラール】の一人であるカミユだった。 彼の向かう先は…お気に入りである、温室。 園芸部であり、前から植物が好きだということもあり 温室にはよく足を運んでいたのだが、 最近は授業終了後、またはシュトラールの仕事が終わった後 温室に足を運ぶというのが日課になっていた。 「もう…いないのかな」 温室に入ったとき、いつもの声がしない。 そう、いつもの。 「こんにちは、カミユ様」という彼女の朗らかで優しい声が、聞こえなかった。 「約束…していたわけじゃないし、仕方ないよね」 ぽつりと呟くカミユ。 そう、約束などは一度もしたことはなかった。 けれど、カミユが温室で花の世話をしていると明るい声と優しい笑顔で 温室に顔を出し、一緒に花達の世話をしていてくれた彼女。 最近はそれが毎日続いていたものだから。 だから…もしかしたら、今日も、などと期待してしまった。 「仕方…ないよね」 そう言いながらも自分の声の落胆ぶりに気がつき驚くカミユ。 こんなに彼女が自分の心の中を占めているなんて。 その時。 温室の花達がさわさわとざわめきたった。 「あれ…?どうしたの?」 奥のほうに足を向けるとそこには…。 「…!」 花達に、守られるようにして、眠っている、彼女の姿が。 柔らかい表情で眠っている彼女。 その彼女の姿を見て、カミユの落胆のキモチはみるみるうちに消えていって。 風邪をひいてしまうかもしれない。 寝顔を見ていたと知られたら彼女に怒られてしまうかもしれない。 そう思うけれど。 こんな特権、なかなかないんじゃない? あと5分だけ、このままで。 花達と、僕だけの秘密の時間。 【END】 -------------------------------- カミユさまSS。 彼はプチ黒だといいなと思ってます。(違います)