「ふう…雨が降ってきやがったな。じゃあ、今日はここらで宿を取ろうぜ」
「そうですね」
「疲れたか?顔色があまりよくないみたいだが」
「いいえ。天気がよくないからそう見えるだけなのでしょう」
「…そうか」


初めて訪れた街。
初めて貴方と歩く道。
そこに足を踏み入れるのは凄く新鮮で、楽しい…けれど。

「二部屋、頼む」

エド様が宿を取る声が聞こえる。

…ねぇ。
わたくしは、あなたの、何なのですか?



+触れてもいい?+
私と、エド様の関係。 …ただの、兄妹だといわれればそれでオシマイ。 けれど、 私は、エド様を兄以上に想っていて。 それは…エド様も同じ気持ちだと思っていた。 卒業式のダンスパーティで、気持ちを確かめ合って。 旅をしながら考えていこうと話した。 これからの、私たちの行く末を。 私たちの…関係を、誰も知らない土地へと。 そう…思っていたのに。 エド様は…卒業式に優しく抱きしめてくれた時以来…私に触れてはくれてはいない。 エド様は優しい。 もしかしたら私の気持ちを考えて兄として妹の我侭を叶えているだけなのかもしれない。 自分の考えの行き着いた先に。 ぶるりと身体が震えた。 「おーい。どうする?ここの宿…」 エド様の声を無性に聞きたくなくて。 自分を呼ぶ声を無視して宿から飛び出した。 どこをどう走ったのかも覚えていない。 気付けば森のような場所にでていた。 「ここ…」 エド様と、ピクニックした場所にそっくり。 あの頃は、よかった。 ただの男と女として。 私はエド様が好きだった。 好きでいてよかった。 誰に何も咎められることもなく、好きでいてよかったのに。 そう思うと涙が溢れて止まらなくなった。 「…ここにいたのか」 不意に聞こえるエド様の声。 思わず振り向くとエド様も傘をささずにここまで来てくれたらしい。 息も切れていて…走って私を探してくれていたことがわかる。 お願いだから…これ以上、私に優しくしないで。 「おいおい、お前ビショ濡れじゃないか。…仕方ねぇな。さっきの宿に戻るぞ」 「………」 何も言わない私に少し困った顔をした。 こんな顔をさせたいわけじゃないのに。 諦めてエド様の少し後を歩いて宿へ入った。 秋雨は身体を思いの他に冷やしていて。 部屋に入ったあとエド様にタオルを被せられてようやく一息つけたようだった。 身体冷やさないように時期は早いが暖炉を使うかと言い、 部屋のまわりを慌しく歩くエド様。 「…あ、あの。私は大丈夫ですから、エド様、ご自分のお体を拭いてください」 「俺はお前が濡れているほうがイヤなの。お前は身体しっかり拭いておけ」 「でも…」 「…なぁ。俺といて…お前、楽しいか?」 「…?」 質問の意図がわからずエド様の顔を見るとエメラルドグリーンの目が 悲しげにゆがめられていて。 「最近…お前、笑わなくなった」 「…そんなこと」 「俺、お前と一緒にいたくて、卒業パーティのとき、あんなこと言って お前をこんな遠い所まで連れてっちまったけど、本当は後悔してんじゃないかって。 本当は違うヤツのところに嫁に行った方が幸せだったんじゃないかって…」 「そんな…」 「それに、お前。さっき…泣いてただろう?」 「え…?あ、雨でそう見えただけでしょう?」 そんな。雨で隠れていたとほっとしていたのに。 エド様に気付かれていたとは、思わなかった。 「そんな訳あるか!俺は…お前に…そんな表情させたいわけじゃ、ないんだよ…」 辛そうに、せつなげに、揺れる、エド様の瞳。 その言葉にさっきようやく止まった私の涙も溢れてきて。 「エド様…エド様こそ、私に愛想をつかれたのではないのですか?」 「え?」 「最近のエド様は…私を見ても辛そうなお顔ばかり。 それに…卒業式のとき以来私に触れてはくださいません。 ただの妹の我侭として一緒に付き合ってくださっているのかと…」 「そんなことはない!」 私の言葉は途中で遮られた。 …エド様の言葉と、きつく抱きしめられたから。 雨に濡れお互いに冷え切った身体は互いの熱を吸収しあい 触れ合った部分から暖かくなってきた。 「そんなことはない…。俺は、怖かったんだ」 「…こわかった…?」 「お前に触れたい。お前を抱きしめたい。でも…お前は、違うんじゃないかって。 ただ兄として慕ってくれて、俺に着いて来てくれてるんじゃないかって。 そう思ったら…俺が、俺の想いが、汚れている気がして。 …お前まで汚すことは出来ないと…」 「…それで、いつも私と部屋を別々に?」 「…そうだよ。ああ、格好悪い」 くしゃりと自分の髪を掻き揚げるエド様。 その様子があまりにも可愛らしく感じれて、私は思わず笑ってしまった。 「格好悪くなんてないです。それに…私も、ずっと、こうして欲しかった…」 そう呟くとエド様はいつもの…私の大好きな顔で笑ってくれて。 「お互い…すれ違ってたんだな」 「…はい」 「触れても、いいか?」 「ええ…ふれて、ください…」 部屋が暖かくなった時には。 私の心と身体も暖かくなっていた。 【END】 -------------------------------- 微妙エド主。 これの続きがあったら確実に裏ですな。 (ちなみにこのサイト、裏はないです)