+ONE DAY+


夢を、見た。
一番の親友だと思っていたやつが、俺をおいて逃げていく夢。

夢?
夢だったらどんなにいいか。

これは夢なんかじゃない。

…現実だ。


あれは…誰だ?
…桜川?
俺と、シュタイン以外に、信じられる唯一の人。


『さよなら』


…え?

『さようなら、華原君』

まてよ。

『ごめんね、華原君』

待てってば。桜川。

『さようなら』


お前も、俺をおいていくのか…?


「――――ッ!」
言いようのない不安と、気持ち悪ささから逃げ出すために目を開けてみれば
いつもと変わらない自分の部屋の天井が目に入った。

「あ。目、覚めた?」
しかし、いつもとは違う声がする。
「さ、桜、川?」

声のする方に目を向けてみれば。
今まで夢の中で俺に別れを告げていた彼女の姿。

「うん。勝手に入っちゃってごめんね。
今日待ち合わせしてたのに時間になっても来ないからどうしたのかなって思って。
携帯に連絡しても繋がらなかったから留守にしているのかとも思ったんだけど
シュタインの声はするし鍵開いてたから…」
「うん、それは、いい」

そういえば、今日はシュタインの散歩を一緒にしようと誘っていたな。

「そしたら華原君、ベッドでうなされてるんだもん。びっくりしちゃった。
最近温度差激しいもんね。風邪かなぁ」
「うん」
「何か食べれる?」
「…うん」
「…じゃあお台所借りるね。お粥でも作るから」

立ち上がり台所に向かおうとする彼女を思わず引き止める。
なんだか彼女がこのままどこかに行ってしまう気がして。

逃げられないように強く。強く抱きしめた。

「ど、どうしたの?」
「…」
「ごはん、食べれないよ?」
「…もう少し。このまま」
「…元気に、なれないよ?」
「桜川が、どこにも行かないなら」

「…どこにも、行かないよ」

きゅ、と桜川も俺を強く抱きしめ返してくれた。

「でも、どこかには、行きたいかな」
「…どこに、行く気なんだよ」
声が低くなった俺にくすりと桜川が笑った。
「どこでもいいかな。早く、華原君が元気になって。
華原君と…二人でだったら、どこででも」
「桜川…」

その瞬間。『ワンッ』と自己主張をするシュタインの声。
「あはは。ごめんね、シュタイン。
華原君と、シュタインと。…それとわたしがいればどこだっていいよ」
「うん…」
「ね。だから早くご飯食べて元気になろう?」

「…ああ」

まったくもって、彼女にはかなわない。

もし、彼女に裏切られたら、その時俺は生きていられないだろう。


それを彼女に言ったら、引いてしまうだろうか?
やっぱり、逃げてしまうだろうか?

それとも、いつものあの優しい笑顔で。
俺のことを包み込んでくれるんだろうか。


「ご飯食べて元気になるよ。でも今はもう少しだけ桜川とこうしていたい」
「か、華原君ッ!…もう。少しだけだからね?」


いつかは試してしまうんだろうけど。

…今は。
もう少しだけは、このままで。



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大丈夫だと信じつつも裏切られたら怖いと思う心。