+Strawberry Kiss+

「ふう。今日はもうこんなもんでいいかな」 トン、と書類を綺麗に一まとめにして鈴原むぎは席を立った。 今日は早いぞ。久しぶりに手の込んだご飯作ろうかな? 誰も夕飯はいらないって連絡入ってないし。 そう思い荷物をまとめ他の職員に挨拶をし職員室を出る…瞬間。 「す〜ず〜は〜ら〜せんせ〜いッ!」 大声で呼び止められた。 この声は間違えるはずもない。 むぎは少し疲れた表情で振り向いた。 「…山本、先生…」 そんなむぎの声の調子に気付いたのか山本は大声でまくしたてる。 「おやおやおや〜?なんだか鈴原先生、元気ないですねぇ?」 「…そんなことはないですよ」 「いやいや!ボクならわかる!なぜならボクとアナタはソウルメイトですからネ!」 「…はぁ」 「本当に元気ないですねェ…。そうだ!サァ、ボクと一緒にアイスを食べに行きましょう!」 「へ!?」 何がどうなったらそうなるのか。 むぎが激しく動転している間に山本はどんどん話を進めていく。 「そう、疲れているときには甘いモノ!そして横には親友であるソウルメイトのボク! ああ〜素晴らしい!なんて素敵なシチェーション!さぁ、鈴原先生、行きましょうッ!! ストロベリーアイスがとっても美味しいところなんですヨ!」 「え?ええ?」 断ろうとも思ったのだが。 この前むぎは山本の告白を断ったばかり。 しかしこうやって山本は自分を気遣って話しかけてくれる。 それに…自分はこの教師としての立場は今月いっぱいで終了だ。 最後だし…いいか。 「はい…じゃあお付き合いします、山本先生」 そうむぎが言うと山本は目を見開いた。 「…すじゅはらせんせいっ!!ボクは!ボクは嬉しいですッ!! さぁ行きましょう!すぐ行きましょう!さぁさぁさぁっ!!」 「や、山本先生!自分で歩けますってば!!」 「いいえ!迷わないようにボクが連れて行きます!!」 山本がむぎの手をひき足早に校舎を出る。 そして校門を出ようとする…まさにその時。 「何してるの?山本先生、鈴原先生」 涼やかな声が聞こえた。 「おや?これはこれは一宮くんじゃないかぁ!」 「い…いちみやくん、今、帰りなの…?」 声が思わず震えてしまうむぎ。 恋人である一宮瀬伊にこの現場を見られるとは思っても見なかったからだ。 「うん。今日はちょっと遅かったんだ。…で、二人は何しに行くの? …手なんて、繋いじゃってさ」 ちらりと二人の繋がれた手を見る瀬伊。 むぎは必死に離そうとしているのだがさすが体育教師というべきか。 山本の手はびくとも動こうとしない。 「よくぞ聞いてくれました!これからボクと鈴原先生はアイスを食べにいくのダ!」 「…へぇ」 「いや、別に怪しい意味はナイぞ!デートでは…デートでは…、 いや、デートと思ってくれても構わないケド!」 「構いますってば!」 あまりの山本の暴走っぷりにむぎが反論する。 「ふ〜ん…。ねぇ、山本先生、鈴原先生」 「なんだい?一宮くん」 「僕も…アイス食べたいな」 「えぇっ!?」 瀬伊の言葉に明らかに落胆した山本の声。 しかしむぎは天の助けといわんばかりに瀬伊の案に同意した。 「じゃあ、一宮くんも一緒に行きましょうか!さぁ、山本先生案内してください」 「そ…そんなぁ…鈴原先生…」 「来ないんだったら、置いていくよ…?山本先生」 瀬伊の言葉に自分を取り戻し慌てて二人の後を追う山本。 なので…気がつかなかった。 瀬伊がこっそりと真ん中に割り込み、自分とむぎの手が離れていたことに…。 「…!美味しい!」 「でしょ?でしょ?でしょう?」 「ええ、本当に美味しいです!ね、瀬…一宮くん!」 「うん…本当に、美味しい」 カフェの一番奥の席に陣取り、山本オススメのアイスを注文して。 山本が豪語するだけあってそのアイスは美味しかった。 「…ねぇ、山本先生」 スプーンを置き、にっこりと瀬伊が笑う。 「アイス食べたら僕、寒くなっちゃった。 コーヒー、買ってきてくれない…?」 「え?な、なんでボクが…?」 「だって、鈴原先生も僕もまだアイス食べ終わってないし。 それに…可愛い生徒のお願いでもダメ…?はるタン先生…?」 「は…はるタン…!!そう、呼んでくれるのかい?一宮くん…!」 「それに、鈴原先生もカフェオレ飲みたいってさ」 「ええ!?そうなんですか?鈴原先生ッ!!」 ぐりんと音が聞こえそうなほどの勢いでむぎの方に向く山本。 ふとむぎが瀬伊の方を向くと口をぱくぱくとと動かしている。 その口の動きをよく見てみると 『あ・わ・せ・て』 …そう言っていた。 「え…ええ。ちょっと、暖かいものも飲みたいかな〜…と」 「わかりました!山本、いえ、みんなのはるタン、暖かい飲み物を買ってきます!」 そう言葉を残し山本は走って去っていった。 山本の姿が消えた瞬間…瀬伊がむぎの手を握った。 「瀬…い、一宮くん…!?」 「黙って。さっき、山本が触った分」 「……」 黙ってずっと瀬伊のされるがままになっていたが 流石に気恥ずかしくなりむぎが手を離そうとする。 「ねぇ…祥慶の子、いるかもしれないよ?」 「かまわない」 「構わないって…!」 「ココ、一番奥の席だし。死角になってて見えないよ。大丈夫」 「そんな…」 「すずは、さ。僕とこうやって手を繋ぐの、嫌い?」 「…嫌いなワケ、ないじゃない」 なんでこんなに顔が赤くなってるのか、気付いてよ。 なんでこんなに、ドキドキしてるのか、気付いてよ。 そう思ったけれど、口にするのは恥ずかしくて軽く睨むしか出来なかった。 「フフ、すずの顔、こわーい」 「ッ!もう、また馬鹿にして…!」 手を離そうとするが思いの他瀬伊の力は強くて。 「離して欲しかったら、キスして」 「え…?」 「キスして…すず」 瀬伊の手を握る力が強まる。 真っ直ぐにむぎを見つめる瞳。 「…ほん…き?」 「うん」 「……」 どうしよう。 こんな所で、キスなんてして。 すぐに、山本先生が戻ってきちゃったりしたら? もしも学園の子に見られでもしたら? そんなむぎの動揺がわかったのか瀬伊は両手をあげ降参ポーズをとった。 「冗談だよ」 「…え?」 「あんまり無防備だから。からかっちゃった」 「な…。また?もう…瀬伊くんったら…」 その時。 ほっとしたむぎの手を引き自分の方へ引き寄せる瀬伊。 …触れ合う、唇。 そして離れる瞬間、唇を、ぺろりとなめられた。 「ッ!!」 「ほら、無防備。油断大敵だよ?すず」 「〜〜〜〜ッ!」 むぎが怒ろうと口を開きかけた瞬間。 「はるタン参上!ってあ〜〜!な、ナニをしているんだいっ!?」 「…ああ。お帰りなさい。山本先生。鈴原先生の頬にアイスがついていたので 取って差し上げていたんですよ。…ね?鈴原先生」 「…え?ええ!そう、そうです!ありがとうね!一宮くん!」 (本当は、口についてたんだけどね) むぎにのみ聞こえるであろう小声で瀬伊は呟く。 「!!」 むぎにもその呟きはしっかり聞こえたのであろう。耳まで赤くさせている。 「あ…コーヒーありがとうございます。山本先生」 カフェなので携帯用になっているコーヒーを会釈をして貰う。 「え、いや気にしないで…ってアレ?はるタンでは…」 「では、山本先生、僕はこの辺で失礼します」 はるタンではという山本の問いに『山本先生』を強調させ瀬伊はにっこりと微笑んだ。 「じゃあ、僕はこれで」 「あ、うん。気をつけてね、一宮くん!」 「そうだ…鈴原先生」 「…?」 「本当に美味しかったですね、ストロベリーアイス」 「え?うん…そうね。本当に美味しかったわ」 「フフ。じゃあ、また明日」 瀬伊が去った後、一緒の家にすんでいるのがバレないように 少し時間を潰してから帰ろうと思い、むぎはカフェオレに口をつけた。 「あ…一宮くん。少し残しちゃってるね、アイス」 「え…?」 「ここはストロベリーが良いって言ったのに、チョコにするからだよ! ボクの言うことをキチンと聞いておけば良かったのに! その点鈴原先生はボクの言うとおりストロベリーにして正解だったでしょ!?」 「………」 山本の言葉と、 瀬伊の言葉を、反芻する。 そういえば。瀬伊くんはチョコアイスを食べていたような気がする。 でも、ストロベリーアイス美味しかったねって。 美味しかったねって…。 思い出すのは。 自分の唇を舐めたとき。 「〜〜〜〜ッ!!!」 ガタリと大きな音を立て席を立つむぎ。 「す、鈴原先生…?」 「あ…あたし、帰ります!すみませんッ!!!」 赤くなった顔を見られないように顔を隠し店を飛び出した。 目指すはただ、一つ。 やきもち焼きの、彼氏のもとへ。 きっと、部屋で笑いながらあたしの帰りを待っているんであろう、 優しくて、イジワルな、彼の元へ。 【END】 -------------------------------- 瀬伊×むぎ。初SS。 もしかしなくても山本先生、可哀想すぎですか…?(汗) 御堂よりも書きやすかったのですが、どんなもんでしょうか…。