+4+ 演奏が終わったあともまだ余韻にひたり軽く興奮している火原と香穂子。 「うわ〜、なんかものすっごい興奮してるんだけど、おれ!」 「私もです、和樹先輩!なんかいつもよりも凄くなかったですか?」 「香穂ちゃんもそう思った?今日の演奏最高だったね!」 「本当!」 興奮の余韻に浸る香穂子にちらりと目を向けた後自分の時計に目をやる火原。 あと8分で門が閉まるという時間。 「あの…香穂ちゃん」 「はい?」 「もうこんな時間だし…良かったら一緒に帰らない?」 「…はい!」 6時をすぎ学校を出ると。先ほどまで曇りだった天候が少し崩れ始めてきた。 「なんか…今にも降り出しそうな感じだね」 「本当…今日天気予報で降るって一言も言ってなかったのにな」 「うん…ちょっと急ごうか、香穂ちゃん」 「あ、はい。そうですね」 出来れば、このまま二人でゆっくりと歩きたかったけど。 この天候なら仕方ない、そう香穂子は諦め小走りで火原についていくことにした。 その時。香穂子の鼻の頭に冷たいものが。 「ひゃ!」 「香穂ちゃん、どうしたの?」 「雨降ってきましたよ、和樹先輩!」 「え、嘘?」 火原が顔を空に向けると…急に、土砂降りが始まった。 「え、あ、きゃあ」 「うわっ!なんだこりゃ」 慌てる香穂子に火原は自分の制服の白いブレザーを脱ぎ香穂子の頭からそれを被せた。 「え、和樹先輩?」 「香穂ちゃん、窮屈だろうけどそれ被ってて! 濡れちゃうといけないから。…で、あそこまで走るよ?」 火原が指をさした辺りには丁度雨宿りができるような屋根がある惣菜屋があった。 「え、あ、はい!」 「…こっち!」 火原の制服をつかみきょろきょろと回りを見回す香穂子の手をとり、火原は走った。 その手は、大きくて。熱くて。 急に香穂子の胸は高鳴りだした。 「はあ、香穂ちゃん、大丈夫だった?」 「…え、ええ…。か、和樹先輩、足、早…」 「あ、ごご、ごめんね?濡れないようにってことしか考えないで思いきり走っちゃったよ」 「いえ、大丈夫です…」 はあはあと、まだ息の整わない香穂子に申し訳なさそうに謝る火原。 そんな火原を気にしないでとばかりに笑顔を香穂子は見せようとしたのだけれど。 火原のあまりのびしょ濡れっぷりに言葉を失った。 「やだ、和樹先輩、びしょ濡れじゃないですか! ごめんなさい、私が先輩のブレザー借りちゃったからですよね」 「ああ、別に大丈夫だよ」 「でも、そんな…」 慌てて自分の鞄をあさりハンカチを取り出し火原の顔を拭いていく香穂子。 「い?だ、大丈夫だよ、香穂ちゃん!」 「でも…」 顔を赤くしてぶんぶんを手を振る火原。 そんなに慌てる火原を不思議に思っていたがふと自分の格好に気付き我に返る。 思いきり背伸びをし、火原の顔に自分の顔を近づけ雫を拭いている自分。 「ごっ!ごめんなさい!」 そして一度意識してしまうと元に戻すのが難しくて。 ブレザーを脱ぎ、シャツだけの火原。 その身体は雨に濡れ、身体のラインがはっきりとわかり…。 私、おかしい。 「どうしたの香穂ちゃん?」 「え、きゃああ!」 急に黙り込んだ香穂子を覗き込む火原。 思わず叫んだ香穂子に火原は驚いたが、叫んだ香穂子自身も驚いていた。 「あ、ごめんなさい!あの、考え事していて!」 「なら…いいんだけど」 別段気にした様子ではない火原にほっとし、彼を横目で見る香穂子。 なんで、避けられて、悲しかったの? なんで、一緒に演奏出来るようになって私、嬉しかったの? なんで、 こんなにどきどきするの? 急にぎくしゃくとしだした香穂子を不思議そうに見ていた火原。 だが、ふと顔を上げて空を見てみるとかなり雨が止んできていた。 「あ。雨、止みそう」 火原の声に顔を上げ香穂子も空を見てみる。 光が差し込んできていた。本当に天気雨だったみたいで。もう雨は上がっていた。 「よかったね、香穂ちゃん。雨上がったよ?」 にっこりと火原が笑う。その笑顔をみてまた香穂子の鼓動は高鳴る。 本当に、私、おかしい。 和樹先輩の…顔が見れない。 「ごご、ごめんなさい!和樹先輩、私…用事があるので帰りますッ!」 「ちょ、ちょっと香穂ちゃん?って、俺の、ブレザー…。あ、行っちゃった…」 脱兎のごとく逃げる香穂子に唖然とする火原。 本当にどうしちゃったの、私? そう悩む香穂子が自分の気持ちに気付くまで2日かかり。 その間、火原は自分が何かしてしまったのではないかとずっと悩み続けていた。 …周りにバレバレなこの少年・少女の悩みは尽きることがなかった。 ---------- END これにて終わりです。 かなり昔のSSなんですけど(同人誌で出してました。) 自分的には好きな話です。 両思いなのに自分達のみが気付いてない片思いにキュンとします(笑)