「香穂子…今日、暇か?」
「え…」
月森くんが、いつもより少しうわずったような、
少し…困ったような声で私に暇かと聞くときは…決まっている。

「よかったら…ウチに来ないか」

月森くんの家への、招待。

それに気付いたのは…付き合い初めて2ヵ月後。
夏になりかけの、日だった。



スイミツトウノ夜

「おじゃましま〜す…」 「…誰もいないんだ。いつも言っている通り、気にしないでくれ」 「…でも。何も言わないで入るわけには…。 一種の礼儀だと思ってくれればいいから。ね?」 「まあ…香穂子がそうしたいのなら、かまわないが」 なんだか律儀に無人の家にも挨拶をして入る所が香穂子らしい。 そう思い微笑みながら月森は香穂子を家の中に入るようにドアを開け、促す。 香穂子も何度か来ているため『スリッパ、出していい?』と聞き 月森が頷くと二つ…出してきた。 一つは前に自分が香穂子が来た時に出したスリッパで。 もう一つは…いつも自分が使っている、スリッパ。 「あ…」 「?あ、あれ?もしかして月森くんが使ってるやつってこれじゃなかったっけ? 前来たときコレはいてたような気がしたからつい出しちゃったんだけど…」 「いや…これでいい。よく覚えていたな…」 そういうと彼女はにっこりと笑い当たり前のようにさらりと言ってのけた。 「覚えてるよ〜。だって月森くんのことだよ?」 そんな香穂子に耐え切れなくなり月森は思わず彼女の身体を抱きしめた。 「え…ちょ、月森くん?」 「香穂子…香穂子」 「月森くん…。って、ちょ…ダメダメ、月森くん!」 慌てたように声を上げる香穂子。 月森の手は、 片手は彼女の腰に。 もう片方の手は、彼女の胸の上にあったから。 「…なんで」 「なんでって!だってここ、玄関…!!」 「構わない」 「…!構わないってそんな…!」 「君が悪いんだからな」 「ハイ?」 「君が、悪いんだ」 あんなに、可愛いことを言うから。 言葉には出さず抱きしめる腕に力を込める月森。 香穂子は何故自分が悪いのかと疑問に思うばかり。 「え、なんで私が悪…ひゃあっ!」 「少し…黙って…」 ペロリと耳を舐めればいつもよりも甲高い声があがる。 その声を恥じ、顔を赤らめて黙る香穂子の顎に手をやり少し上を向かせた月森は 少し開いた彼女の唇に自分のそれを合わせた。 「んん…!」 いつもよりも深い、深いキス。 ちゅく、ちゃく…と水の音がし、あまりの恥ずかしさにぎゅっと香穂子は目を瞑った。 そんないつまでも慣れない香穂子を可愛らしいと思いつつ少し嗜虐心が芽生えてしまう月森。 名残惜しいと思いながら唇を離すとつつ…っと銀色の糸が引いて。 「香穂子…」 「…ん?」 「見て」 「え…」 月森の指す方向をのろのろと見やる香穂子。 そこには…大きな、鏡が。 「香穂子の顔、真っ赤だ」 「や、やだ…」 「ほら…キスのアト」 ぐい、と香穂子の唇から顎にかけて垂れていた二人の唾液の後を指で拭う月森。 その指を、ペロリと舐める月森を鏡ごしに見た香穂子は。 あまりの月森の色っぽさにくらりと眩暈をおこしそうになっていた。 …女の私よりも色っぽいってどうなのよ…これは…。 自分の考えにむなしくなりふらりと膝を床につける香穂子。 「香穂子…いいか?」 「ほえ?」 まだ頭がぼうっとして働かない香穂子の返事を待たず 月森は香穂子の身体を横抱きにし階段を昇っていった。 「え…月森くん…どこ…に?」 「…俺の部屋だ。…別に君が、玄関がいいのなら俺は一向に構わないが」 「……」 「玄関がいいか?」 「…っ!!い、いえっ!部屋が!月森くんの部屋がいいです!!」 思わず香穂子は大声で叫ぶ。 あまりの大声に月森と…香穂子自身もきょとんとしてしまう。 そして…自分の言った言葉を認識してみるみるうちにまた顔を赤らめる香穂子。 そんな香穂子の様子に耐え切れず笑い出す月森。 「…月森くん。笑いすぎよ」 「…わ、悪い。いや…香穂子が、そんなに、俺の部屋で…が好きだったなんて。 知らなかったから…つい…」 「〜〜〜!だから…っ!」 「わかってる」 ぽふんと優しく香穂子を自室のベッドに横たえ、 額、瞼、頬、…と顔全体にキスの雨を降らしていく。 「ふ、ふぁっ…くすぐったいよ…月森くん…」 「…じきに…よくなる…」 ・ ・ ・ 「暑いね…」 「ああ…もう7月だもんな…」 二人で裸でベッドに横たわりながら話す、月森と香穂子。 暑いのは身体が火照っているからではないか…とも月森は思ったのだが。 それを口にするのは得策ではないと思え、無難な言葉を口にして終わった。 「そういえば…学校明日からプール開きなんだよね」 「…もうそんな季節なんだな」 「ねえ。やっぱり音楽科ってプールもないの?」 「ああ。体育そのものが存在しないからな。当然プールもない」 「そっか〜…。暑いから気持ちいいのにね。プール…」 「そうだな…少し羨ましい気もする」 「でも、手を怪我するわけにはいかないもんね」 「そうだ。香穂子も気をつけるように」 「はぁい。でも…明日は本当楽しみ!」 「プールが、か?」 「そうそう。土浦くんともようやくだねって話してて」 「…ほう」 ぴくりと。月森の頬がひきつる。 しかしそんな月森の様子に気付くことなく香穂子は話を続けていく。 「…しかし土浦と君はクラスは違ったよな?」 「うん。でも体育は2と5合同だもん。明日は一緒だよ? 土浦くん、泳ぐの早いんだって〜!運動神経抜群だもんねぇ。羨ましいよ」 ぴくぴくぴくぴく。 月森の頬の筋肉が激しく動いていた。 そして…。 「へ?つ、月森くん!?」 「…少し黙れ」 「え…やだ、また…?」 月森は再度香穂子に覆いかぶさり、ベッドに沈んでいった…。 「…ありがとう。月森くん。わざわざ送ってくれて」 「いや。…遅くなったのは…俺のせいだから。気にしないでくれ」 「あはは。やきもち妬いてくれたのかな?ライバル心からだったら悲しいけど。 それじゃあね、また明日!」 「ああ…また明日」 香穂子を軽くシャワーを浴びさせ家まで送った月森。 彼女が家に入り姿が見えなくなるのを確認した後、月森も帰路につくことにした。 …さて。 彼女はいつ気がつくのだろうか。 家に帰って、風呂にでも入った時に気付いて怒って電話がかかってくるかもしれない。 しかし、鈍い彼女のこと。 もしかしたら気付かずに明日普通に体育の授業に出るかもしれないな。 それはそれで…面白いのかもしれない。 ヤツの…土浦の、びっくりする顔が見れるのかもしれないから。 彼女に施したもの。 それは自分にしか出来ない特権。 自分にしか、つけることが許されてない、紅いシルシ。 123123番を踏んでくださったノエさんのリクエスト 『月森×香穂子の微エロSS』…でした。 微エロに…なって、ますか…?? なんかあまりエロくないですが。 微エロって難しいですが楽しいですね…(笑) せっかく鏡というモエ小道具を出したのに生かしきれてない自分の 文才のなさを嘆きます…。 ノエっち、本当こんなんで申し訳ありません…! 海老で鯛を釣った心境であります〜。 サイト引越しによりつっちーと香穂ちゃんのクラス直しました(笑)