+少年・少女は苦悩する+


「…パイ、先輩」
…おれを、呼ぶのは、誰?
「先輩。和樹先輩」
…香穂子ちゃん?
「はい。アタリです、和樹先輩。おはようございます」

おはよう、香穂子ちゃんって…ええええ?おはよう?
どど、どうしておはよう…?ッ!って、香穂子ちゃん、どうしたのその格好!

香穂子の格好はというと。いつもの制服のブレザーを脱ぎ、ブラウスのボタンもすでに3つ外れた状態だった。
身体を猫のようによつんばいにし、火原ににじり寄る。

「先輩を思っていたら…もう、私…」
わ〜!話しながらボタンはずしちゃダメだってば!
「でも私、我慢できないんです」
でも香穂ちゃん!それはまずいよ!

「私…先輩のこと…」
香穂ちゃん…。

潤んだ瞳に見つめられ、火原の理性も崩されていく。
「好…」
「香穂子は俺のだ!」
瞬間。いきなりわいて出てきた月森・土浦に蹴飛ばされた。

どだだだだだッ!
「いって〜…って、夢…?」
目を開けると。おれ…火原和樹はベッドから落ち、頭をしたたかにうちつけていた。
        
***        

「はあ…」
朝から溜息が止まらない。今日何度目かもう分からなくなっている溜息を火原和樹はついた。

なんで、あんな夢を見たんだろう?

最近、火原ととみに仲良くなった一年後輩の女の子。名を日野香穂子という。
火原は彼女を気に入っていた。可愛いとも思っている。
何にでも一生懸命で。いつも笑顔で。…好き、なんだと思う
けれど。その好きはいつも一生懸命で笑顔を絶やさない可愛い妹…のような感じだと思っているのに。

なんで、彼女が服を脱がなきゃいけないんだよ?
目をつぶるたび、今日の夢のあの彼女の姿が甦る。

彼女に申し訳なくって。自分にこんな気持ちがあるんだと再認識して恥ずかしくって。
今日はまだ一度も、彼女と顔をあわせてはいなかった。
いつもなら香穂子の登校する時間に合わせて電車に乗っていたのだけれど、
後ろめたい気持ちもあってか少し早い時間に家を出た。
…まぁ、早く起きたということもあるけれども。

「でも…会わないわけにはいかないよなぁ…」
彼女と自分は今コンクールに参加しているライバル同士。
しかし同じような曲を好むことが判ってからは一緒に合奏することも多くなっていて。
顔を合わさない日は無いほどだった。

「それに…」
会いたいし。さすがに独り言でそこまで言うのは恥ずかしく心の中で呟いた。その、瞬間。

「『それに』、どうしたんですか?和樹先輩」

その声の主を理解し、一瞬の間ののち。
「うわわわわあッ!」
火原は顔も見ず走り去った。
「…先輩…?」
残された香穂子は摩訶不思議な火原の行動に首をかしげるしかなかった…。

***         

やばい。
香穂子ちゃんの顔が、見れない。
見ようとすると彼女の扇情的な姿が頭をよぎってしまって。

「おれ…香穂ちゃんに変に思われて無ければいいけど…」
「無理じゃないかなあ?」
「うわわわッ!」
「おはよう、火原。ドアの前で突っ立たれても入れないんだけど?どいてくれないかなぁ」
「ゆ、柚木…。あ、ごめん」

自分の教室の前で頭を抱え立っていた火原に後ろから柚木が声をかける。

「で、でも柚木。無理って…?」
「だって。そんなにドアの前で百面相したり座ったり、
いきなり立ったりしていたら普通に変だと思うだろう?」
「ああ…そういう、ことか…」

先ほどのことを言われたのではないと知り少しほっとする火原。

「先はいるよ?」
「どうぞ〜」
柚木は火原を通りすぎ先に教室に入る。火原も同じくはいろうと思った矢先に
「お〜い火原!」
「んあ?なんだよ青山!」
「お前、昨日俺の教科書間違えて持って帰ってないか?
休み時間バスケした後から消えてるんだけどさ。
普通科のやつ全員持ってないって言うから後お前だけなんだけど」
「え、まじ?ちょっとまって…」
と話しかけられそのままになってしまった。

なので…柚木の独り言は火原に伝わることは無かった。

「あんな態度とったら流石の日野さんも変に思うさ」

…という言葉が。


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