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「和樹先輩に私、何かしたのかなあ?」

昼休み。
いつもの通り天羽菜美と冬海笙子とご飯を食べるために
森の広場へ来て、ベンチに座った後ぽつりと香穂子は呟いた。

購買のサンドイッチを手に取り、
いざ口に運ぼうと思っていた矢先だった天羽はその中途半端な手のまま話を進めた。

「なんでそんなこと思うのよ?」
「う〜ん…なんか昨日から避けられているような気がするんだよね。
昨日朝、姿見かけたから声かけたのね」
「ふんふん」
「いつもだったらそこから一緒に学校行ったりとかするんだけど。
…昨日は声かけた瞬間走って行っちゃって」
「急いでいただけとかじゃないの?」
「だと、いいんだけど。最近いつも毎日一緒に合奏していたんだけど
昨日はどこにも見つからなくて」
「一人で練習したかったとか?【火原和樹、謎の一人秘密特訓】?
…記事にするにはもう一押しってところね〜」

「…菜美」
「いや、冗談よ。じょ・う・だ・ん。怒っちゃイヤ」
「…もう〜。それに、さっきも購買で会ったんだけど…。
カツサンドについて語ってものすごい勢いで走って行っちゃった」
「……」

『それはいつもでは。』そう天羽は思ったが流石にここで口を挟むべきではないと判断し黙る。
すると今まで口を開かず香穂子の話を真剣に聞いていた冬海が口を開いた。
「…昨日、火原先輩見ましたよ」
「え、本当笙子ちゃん!」
「ええ。音楽室に一人こもっていたみたいで…。
名前が書いてあったので多分間違えないと思います。でも…」
「?」
「いえ、これは私の推測でしかないのですけど。
昨日音楽室から流れてきた火原先輩の演奏…ちょっと違っていて」
「違うって…?」
「何て言ったらいいのでしょうか…。うまく、言えないんですけど。
音に何か迷っている感じがして…。だから、香穂先輩と一緒に演奏しなかったんじゃないのかなって」
「ああ、そういうこと!昨日はトランペットの調子が悪かったから
香穂子と一緒に合奏したくなかったんじゃない?
んで今日はきまずくって逃げちゃった、と。そうなったら話の辻褄が合うんじゃないの?」
「…そうか、な…」

「それに…」
「それに?」
ぽつりと呟いた冬海の言葉に香穂子が続く。その香穂子の言葉に
はっとし冬海は慌てたように手を左右に振った。

「あっ、いえ…なんでも…なんでも、ないです!」
「あ〜冬海ちゃん、隠し事はナシよ?記事に出来そうなことは協力するって言ったよね?」
「え?いつそんなことに…。あの、でも、本当に何もなくて…」
「もう、菜美!笙子ちゃんいじめちゃダメでしょ」
「あら心外ね〜。いじめたつもりはないわよ。
でも香穂子、そんなに火原先輩のこと気にするなんて、アナタにもついに春到来?
やだ、それこそ記事になるじゃない!香穂子なら『ヴァイオリン・ロマンス』だし!」
「な、菜美!違うから、違うから!笙子ちゃんも違うからね!
こら、菜美!ジャーナリストが嘘広めてどうするのよ!」
「嘘って失礼ね!」
「ふふ」

最後は笑いながらの香穂子と天羽の言い合いになりその話はそこで終わった。
なので冬海の思ったことは口に出ることはなかったのだった。

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おなご3人の会話は楽しいのう。