+3+ 「あああ。また、やってしまった…」 本当は、普通に接しようと思っていたのに。 そう決めた矢先に先ほど購買で香穂子に会ってしまった。 まだ心の準備がまったく出来ていなかった火原は慌ててしまって…。 「だからってカツサンドのことだけ語り倒して帰るなんて、おれって、おれって…」 『バカかも』そう思い深い溜息をつく。 あまりに頭をたれたので身体がぐらつき手元の大量のパンが落ちそうになり慌てて持ち直す。 先ほどの香穂子に語った熱いカツサンド談義に 購買のおばちゃんが感動し余ったパンを大量に火原にくれたのだ。 火原は友達になるのが非常にうまい。 人と仲良くなるのが大好きで。 なのに香穂子相手だと何かうまくいかない。 香穂子にこのままじゃ嫌われてしまうかも。 そう思うといても立ってもいられず謝ろうと心に決めた。 「まずは腹が減っては戦は出来ぬ!」 そう思いパンをむさぼり食べる火原だった…。 そして…放課後。 チャイムが鳴った瞬間火原は教室を飛び出した。 担任が何か言っていたのは聞こえたが今は何よりも香穂子に謝るのが先決だ。 まだ香穂子のことを考えると夢のあの香穂子が出てきてどきどきしてしまうけど。 嫌われるよりは全然いい。早く今は香穂子に会いたい。…それだけだった。 「なんでこんなに音楽科と普通科、離れてるんだよッ」 そう一人ごちて走る。目指すは2年の教室。この階段を上れば…。 そうして、上りきった火原の目に入ったのは。 にこやかに話す香穂子と土浦の姿だった。 そりゃあ土浦もコンクールのメンバーであり、仲間でライバル。 そして普通科からの参加で。香穂子と仲がいいのはわかっている。 けれど…なぜか、胸が痛くて。 「あ。こんにちは、火原先輩。…早いですね」 「和樹先輩?へ、どこどこ?」 「あそこだ、日野」 「んん…?あ、和樹先輩、こんにちは!」 「香穂ちゃん、土浦。こんにちは。いい、天気だね…」 背の高い土浦がまず火原を目に留め香穂子に教えてやっていた。 火原に気付くと香穂子はにっこりと笑ってくれていた。 あんなに、自分は避けていたというのにまだ笑ってくれる、彼女。 そして…気付いた。 そうか。おれは、香穂ちゃんのことが、好きなんだ。 それは、『後輩』としてでも、『妹』としてでもない、 純粋に『女の子』に対する、好き。 だから、あんな夢を見て、動揺して。 土浦と一緒にいる彼女を見て、嫌になって。 そうか…だからか。 自分の気持ちがわかりにっこりと笑う火原。 元々考えるのがあまり得意ではないのでようやく憑き物が落ちたような気分だった。 「?和樹先輩?」 「あ、ごめんね、香穂ちゃん。ちょっと話があるんだけど、いいかなあ?」 「ええ、大丈夫ですよ」 「じゃあ俺、行くわ。ありがとうな日野。教科書、助かった」 「あ、うん。気にしないで、土浦くん。私も忘れた時は頼りにしてるから」 「ハハ、困ったときはお互い様ってか。了解。じゃあな。火原先輩も、失礼します」 「バイバイ土浦くん」 「ごめんな土浦」 手をひらひらと振り自分の教室へと戻っていく土浦。 それを見送った後香穂子は火原に向き直った。 「あ、ごめんなさい、先輩。…で、あの…話ってなんでしょう?」 「かしこまらなくていいよ、香穂ちゃん。…あのね、ごめんねって言いたくてさ。 昨日からおれ、ちょっと変だったよね。驚かせちゃって、嫌な気分にさせちゃって本当ごめんね」 「いえ…そんな」 「でももう、大丈夫だから。香穂ちゃんさえ嫌じゃなかったら、なんだけど…」 一息つく、火原。香穂子も真剣な面持ちで火原を見ている。 「香穂ちゃんさえいやじゃなかったら、今から一緒に演奏してくれませんか?」 「はい!もちろんです、和樹先輩!」 にっこりと、最高の笑顔で香穂子は答えてくれて。 一緒に校門前で演奏をする火原と香穂子。 その演奏は聴くものを元気に、明るくするような…そんな演奏で。 「…おや。仲直りしたみたいだね」 「本当ですね」 人だかりの少し後ろで火原と香穂子の演奏を聞いているのは天羽と冬海の二人だった。 「…ん?別に火原先輩の音、変じゃなくない?」 「…また、変わりましたね。火原先輩。音が…何か吹っ切れた感じがします」 「そんなもの?」 不思議そうな天羽に冬海はにっこりと笑った。 「そんなものです」 『それに…火原先輩、香穂先輩と合奏なさるとき、 本当にいい演奏、いい表情をなさるもの。それは香穂先輩も同じ、なんですけど。 だから…心配はいらないと、思うんです。』 この前二人に内緒で思っていたことが本当になり嬉しかった。 大好きな…自分に自信を持たせてくれた香穂子には、本当に幸せになって欲しかったから。 火原と香穂子の元気になる演奏を目を閉じて聞き入っていた冬海は 「よし、私も頑張ろう」と小さくガッツポーズをとりクラリネットを取り出した ---------- →NEXT しょこちゃんとあもちゃん、大好きです。